制限なし

【タウンリポート】 上海は競争が前提の小学校教育

《ASIAN TOWN REPORT vol.8》

アジアの街角を現地の生活者の視点でウォッチしてみるアジアン・タウン・リポート。私たち日本人がまだまだ知らない現地ならではの常識や流行、社会や経済・文化にまつわる話題を気ままに報告してもらいます。今回は、中国・上海の街角からお届けします。
 
 

小学生が競争を強いられる社会  

日本の小学校教育は他者との比較を行わず、本人の努力や成長を評価する絶対評価となっています。これは2002年の学習指導要領の変更により、絶対評価による教育は落ちこぼれをなくし、個性を尊重するといういわゆる「ゆとり教育」がスタートする中で取り入れられた仕組みなのですが、その是非は専門家の方の判断にお任せするとして、中国の小学校では相対評価を基にした徹底した競争が発生するようになっています。 


 

 

小テストの結果がSNSを通じて父兄間で共有される  

プライバシーにうるさい日本では考えにくいことですが、小学三年生の筆者の娘が通う上海ローカルの小学校では、WeChat(日本のLINEのようなアプリ)上にクラスの父兄用のグループチャットがあり、小テストや宿題等の成績優秀者の名前が発表されるようになっています。さすがに成績が悪い子の名前は公表されませんが、これによって成績優秀者は誰なのか、クラス内のおおよその序列が分かるようになっているわけです。

 


 
 

宿題の内容もWeChat経由で父兄に連絡   

中国の小中学校の宿題の多さは日本でも有名ですが、宿題の内容についてもWeChatで先生から父兄に連絡が入ります。宿題は主に国語、算数、英語の3教科ですが、ひらがな、カタカナのない中国では小学校1年生から漢字の書き取りが頻繁に宿題として出るため、かなりの画数の漢字の書き取りを時間をかけてやる必要があります。 

また、中国の英語教育は2001年の段階で小学校3年生からのスタートが必修化されています。しかし実際には上海や北京等の大都市では小学校1年生から英語教育が始まっています。英語の宿題は単語の書き取り等のプリントの場合もありますが、多くの場合iPadのようなタブレット上でアプリを使って学習するようになっていて、音声認識による発音の練習が多く、難易度が高い反面これが英語習得に非常に効果的だと思います。  


 

学力だけじゃない!生活面でも競争が!   

テストの成績だけではなく、クラスの皆のために貢献度が高かった、ルールをしっかり守った等の項目で相対評価を行い、優秀者を選出してこれもまたWeChat上で写真付きで開示しており、教室には優秀者に選出された回数がグラフとして掲示されています。 

 



 

 

競わせることによって発生する健全性  

このように競争が日常的に起こるということは子供達を追い詰めたり、親達にプレッシャーをかけたりする要因になるのでは、というマイナスの見方もありますが、筆者の娘が通う小学校を見る限りではそのような競争は健全に働いているようです。成績を相対評価することによってクラス内にヒエラルキーが生まれますが、子供達は成績優秀な子供に対して単純に「凄い」、「羨ましい」といったポジティブな感情を持ち、自分もそうでありたい、という意欲につながっている様子です。 

翻って日本の学校生活に目を向けてみましょう。筆者は1971年生まれですが、中学生の英語の授業の時、APPLEをネイティブのように発音しようとした時、クラスに失笑が起きたことを覚えています。なぜか『ネイティブの発音を真似して正しい発音をする』ということは嘲笑の対象でした。日本では成績が良い子供に対して「ガリ勉」等と揶揄する言葉があったり、突出した能力の子がいじめの対象になってしまったりすることがありますが、中国の場合、頭が良いことを含むなにかの分野で突出した能力を発揮する子供は同じ子供達からみて「尊敬の対象」だという点はこの日常的に行われる競争のもたらすポジティブな面だと感じています。 

また、中国は日本とは比較できないほどの格差社会ですが、そのことを隠そうとしていないという点も競争とその結果を子供達が自然に受け入れる素地を作っているように思えます。大卒でなければブルーカラー以外の選択肢がない、という状況を子供達が理解できるような格差が日常的に散見できる中国に対し、貧困層が相当数生まれているにも関わらず、一見しただけでは格差が見えにくい日本の社会は努力の結果として成功した誰かを妬むような空気が今も、そして筆者が子供の頃にもあったのではないか、と感じています

 

 

本音と建て前を使い分けず、子供の頃から競争させ、相対評価の中で勝ち残ることを良しとしている中国と、建前として個性や多様性を重視して子供には競争をさせず、社会に出てから本音を見せられ競争に晒される日本を比較すると、日本人が中国人に交渉事でなかなか勝てない理由が見えてくるような気がします。 

 

 
 
 
 
執筆者ダミー画像
渡邉良平 
1971年生まれ。2009年から上海在住。日系企業や現地企業での就業経験や生活等を扱ったコラムや文章を執筆するライターとして活躍。現在は横浜国立大学大学院に在籍し、MBA取得に向け勉強中。外食産業の国際化をテーマとした論 文を執筆中 
公開日: 2018年09月15日 00:10