制限なし

【最優秀賞】『「ソング・オブ・ラホール」を観て』 

ドキュメンタリー映画感想文コンクール
【最優秀賞】

『「ソング・オブ・ラホール」を観て』
ぐんま国際アカデミー高等部1年 伏島 伽耶 


視聴作品「ソング・オブ・ラホール」
https://asiandocs.co.jp/con/109?from_category_id=5






「パキスタン人は芸術家でテロリストじゃない」
「君たちは最高だ」
普通にこの言葉を聞いても、「ただの大きい言葉だな」と気にも留めなかったと思います。
 私の通っている学校には「グローブ」という授業があります。グローブはドキュメンタリーについて勉強しながら、生徒たち自らがアポを取って取材をしたり、撮影に行ったりしてオリジナルのドキュメンタリー作品を作る授業です。今回のアジアンドキュメンタリーズのドキュメンタリー映画感想文コンクールへの応募は、そんなグローブの授業の冬休みの宿題でした。コンクールの開催趣旨を読んでみると「まだまだ日本人のアジアに対する意識が高いとは言えません」と書いてありました。その言葉を読んだとき、私は率直にこう思いました。「別に意識が低いというか…日本ってそんなアジアの他の国と一緒じゃないし」。自分がそう思ったことに自分自身衝撃を受けました。私が選んだ作品は「ソング・オブ・ラホール」、選んだ理由は作品一覧の一番上にあったことと、自分が大好きな「ソング」歌がタイトルに入っていること、それだけです。
 この作品を見て印象に残ったことが二つあります。一つ目は、作品の魅せ方です。今回の宿題はドキュメンタリーの勉強も兼ねているので、作品を普通に観ると同時にどのように作られているかも見る必要がありました。「ソング・オブ・ラホール」の主題の一つは「代々受け継がれてきた伝統音楽」という壮大なテーマです。この作品は、親子やおじいちゃんと孫の音楽に関する日常会話の映像で「代々」を、アメリカンジャズとの融合を果たしたパキスタンの音楽スタジオの映像で「伝統音楽」を、見ている側にとって身近な風景が作品の主題を表す働きをして、素材として用いられています。このようにして視聴者に親近感をわかせる工夫は自分たちのドキュメンタリー制作でも見習いたいと感じました。もう一つは、ジャズと伝統音楽の融合という内容です。これは取材の中でも意図していなかった偶然だと思いますが、追放された人々が自分たちの周りの全てを受け入れながら作ってきた即興音楽の「ジャズ」と、信仰の違いを受け入れない、または「音楽は罪だ」という価値観を持つ人々により消滅しかけている、隠れながら続けているパキスタンの伝統音楽が交わることで、同じ境遇を共有しながら自分たちの表現手段を貫き通している姿に惹かれました。
 また自分も音楽をやっている人間なので、作品の中で強く共感した部分がありました。それは、「合わせることの難しさ」です。私は小学3年生の時から合唱を続けています。合唱は皆でハーモニー、リズム、表現などを含めた歌声を合わせて作ります。自分も一個人としてその歌を歌うに当たって、自分の思う音楽や自分の伝えたいこともありますが、その歌を合唱で奏でるときに一つの楽器として周りに合わせて正確に働くことも求められます。サッチャル・ジャズ・アンサンブルは、文化を超えて人種を超えて互いに理解をするだけでも大変なのに、互いの音楽スタイルを融合させながら合わせるという恐ろしく勇気のいることをやってのけたため、見ていてとても緊張、そして興奮しました。また、ドキュメンタリーという観点から観ると、双方のリーダーが合奏の練習に苦戦していたり、全員が互いの理解を難しいと感じていたりする映像を切り捨てずにそのまま見せているので、「すごいな」という尊敬と同時に「私も一緒だ!」と少し嬉しくなりました。
 この作品を見たことによって、自分の中の「ドキュメンタリー」の定義に変化がありました。今までは他者の問題を提起しながら視聴者に問いかける作品のことだと思っていました。しかしこの作品を見て、自分が最初に持っていた「日本ってそんなアジアの他の国と一緒じゃないし」という偏った価値観は飛んだ勘違いだったことに気づいたと同時に、「じゃあ自分は自分の国の伝統音楽を知ってる?それを守れてる?」と自分を見つめ直すきっかけになりました。「パキスタンの人たちとは違って自分は自由に音楽ができる環境にいるのだから、もう一度日本の音楽を聞いてみよう」という新たにやりたいこともできました。ドキュメンタリーは他者の話だけではなく、自分の話でもあるのだと再認識できました。最後に、私はドキュメンタリーとは言葉では表せないものを映像で表す、言葉で表せてはいけないものだと思っていました。しかし、この作品を通してドキュメンタリーは、逆に言葉を生かす表現方法だと感じました。パキスタンの演奏者が伝えたかった「パキスタン人は芸術家でテロリストじゃない」、アメリカの演奏者がコンサート後に発した「君たちは最高だ」、これらの言葉はドキュメンタリーの映像や音声を通して、ただの大きい言葉ではなく生きている言葉として視聴者に伝わるのだと実感することができました。
公開日: 2019年03月10日 19:00