フィリピンの悪夢全3本

国民の9割が貧困層

フィリピン社会では貧富の格差が深刻な問題として横たわっています。1%の富裕層と9%の中間層を合わせても、すべての世帯の1割ほどで、残り9割の世帯が貧困層と言われています。全世帯の9%の最貧困層では、月の世帯収入が1万円程度という状況です。子どもが5人いるような家族が多いフィリピンでは、まともな生活を送ることさえままならない人であふれています。さらに深刻なのは、経済が成長しているにもかかわらず、多くの庶民の生活が向上していないという点です。経済成長の利益を富裕層が独占し、国民の多くは貧困から脱却できないという「負の連鎖」が続いているのです。貧富の差による不公平感は、憎しみや争いを生み、社会を不安定にさせてしまいます。

「麻薬撲滅戦争」がもたらしたもの

2016年に就任したドゥテルテ大統領は、麻薬患者や売人をその場で射殺する権利を警察に与えました。フィリピンの麻薬取締局は、国家警察による2016年7月1日〜2020年1月31日の対麻薬取締作戦中に5,601人の容疑者が死亡したと報告しています。その他に、正体不明の武装集団などが殺害した数千人は、この数には含まれていません。なかには子どもが殺害された例も数多くあります。こうした事態に、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2020年6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を公表。麻薬取り締まりの中で、警官による市民の殺害や人権侵害、殺人を犯した警官の不処罰、家宅捜索での証拠偽造など数々の事実を明らかにしています。

犠牲になる子どもたち、蔓延する政治腐敗

犠牲は殺人の問題だけではなく、貧困層における警察や政府に対する不信感の高まり、そして親を失った子どもたちの苦しみにまで及んでいます。わずかな収入で生活していた家族が、働き手の親を失ったことで路頭に迷い、生きていくための食糧を手にすることさえできない悲惨な状況に陥っているのです。また、目の前で親を殺害された子どもは、深い心の傷を負っています。そうした精神的なケアも行われることなく、ほとんど放置されているのが現状です。一方、こうした悪夢のようなフィリピンの状況を変えるためには、政治を動かすしかありません。しかし、フィリピンに蔓延する政治腐敗もまた深刻な状況にあるのです。

今回の特集では、悪夢のようなフィリピンの現状を直視しながら、政治権力の意義や、社会の様々な矛盾について3つの作品を通して考えます。


 
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