壮大な劇場国家全5本

世襲の正当化に利用された芸術表現 

全体主義国家では、壮大なパレードをはじめ、映画・音楽・文学など芸術までをも駆使し、まさに「劇場国家」型の統治を行ってきました。ナチス・ドイツはその典型的な例といえます。北朝鮮でも、金正日総書記が金日成主席のカリスマ権力を世襲する過程で、こうした手法を積極的に活用したといわれています。 

金総書記は、映画「血の海」で金主席を偶像化し、「花を売る乙女」などの歌劇や「アリラン」などの大規模なマスゲーム公演を利用して、白頭血統の世襲を正当化していきます。壮大な物語を作り上げ、宣伝し、群衆を動員し、統治するのです。 

 

映画による宣伝扇動を行った金正日総書記 

1980年代、金総書記はさらに北朝鮮の映画改革を断行するため、異常なこだわりをみせます。韓国の申相玉監督と女優の崔銀姫を平壌に拉致し、彼らを利用して日本や香港など外国の映画人との合作を推進させ、映画で民衆を熱狂させたのです。北朝鮮にとって、映画は民衆を統治するための重要な手段になりました。 

 

ドキュメンタリー映画が浮かび上がらせた金王朝の正体 

一方で、映像には、意図せずとも、ありのままの本質を浮き彫りにさせる力があります。「金日成のパレード 東欧の見た”赤い王朝”」は、1989年のポーランド制作のドキュメンタリー映画で、1988年の北朝鮮建国40年の記念式典に招待されたポーランド国営プロダクションが北朝鮮政府主導の下で記録撮影したものですが、これを見れば全体主義による「劇場国家」統治がいかなるものかを、感じ取ることができます。どれほど群衆に万歳と叫ばせ、寸分狂わぬパレードやマスゲームを演じさせたとしても、スクリーンに映し出される人々の瞳に、希望の光が見えないのです。 

共産主義独裁政権が次々と倒れていく東欧革命のさなか、ポーランドが民主化した1989年にこの映画を世界に送り出したことは、とても意義深いものでした。自ら、「ナチス」や「社会主義」に苦しんだ経験があるからこそ、全体主義を悲しみ、冷静にみつめなければならないというメッセージが込められているのです。ほどなく失脚していく独裁者たちが、金日成の友人として次々に紹介されるのは皮肉というしかありません。 
 

金正恩が演出する新たな劇場国家とは 

時代は変わり、金正恩が統治する北朝鮮は、張成沢をはじめとする幹部の粛清や、ミサイル核開発、外交攻勢など、指導者自らが主演をつとめる「劇場国家」として新たな統治が進んでいます。私たちは、「壮大な劇場国家」の演出に惑わされることなく、冷静に向き合う必要があるのです。 

 

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