特集「アフガニスタンのいま」(全4本)

◆パワーバランスに変化をもたらすタリバンの外交
2021年8月の復権以降、米国などからの経済制裁が続くタリバンを支えているのが中国やロシア、イランです。国際社会から孤立するタリバンにとって、これらの国々は経済支援を与えてくれるありがたい存在。イランは、国際社会でタリバンへの外交的承認を促すなど、調和的な姿勢を取っています。アフガニスタンから米国が去り、中国、ロシア、イランが地域で存在感を増し、パワーバランスに変化が起きつつあります。パキスタンはかつて米国の支援をタリバンに横流しするほどの後ろ盾となっていましたが、2021年の復権後は過激派組織がアフガニスタンから越境して国内でテロを行っていると主張。2024年3月にはアフガニスタン領内への空爆を行うなど、両国の関係は悪化していて、緊張が高まることが懸念されます。
 
◆食糧不足と経済衰退で危機的状況の国民生活
タリバンの政権下のアフガニスタンで、国民生活は危機的状況に陥っています。最も深刻なのが食糧不足。国際機関の2024年報告では、食糧分野で1580万人が困窮状態で支援を必要としており、うち400万人が極度の栄養失調に陥っています。そのうちの80%は5歳未満の子どもです。経済も危機的状況で、タリバン復権以降、50万人もの人々が職を失っていいます。背景には、欧米をはじめとした国々の財産凍結があります。2021年に米国がアフガニスタン中央銀行の資産を凍結した措置はいまだに解除されておらず、銀行の引き出し制限や企業の撤退などの影響が出ています。国連会議の場では制裁緩和を求める声もありますが、女性の人権状況の改善がみられない中、先行きは不透明です。
 
◆悪化の一途を辿る、女性の教育や就労の権利
タリバンは、女性に対し教育や就労の機会を奪うなど、拘束的なジェンダー規範を制度化してきました。2022年3月に少女の中学校への入学が初めて禁止され、同年12月には大学への入学も停止。翌年1月には少女の大学受験を禁止しました。女性の就学率は急落し、2023年4月までに、学齢期の少女と若い女性の80%が学校に通えなくなりました。女性の教育へのアクセス停止がこのまま続くと、アフガニスタンの経済は2066年までに、現在の国内総生産の3分の2に相当する96億米ドルを失うと予測されています。就労についてもタリバンは、2022年に国内および国際NGOで女性が働くことを禁止。翌年には国連機関で働く女性にも拡大されました。公的・経済的生活から女性を排除しようとするこの執拗な施策は、女性の権利を後退させるだけでなく、女性の存在を否定するものといえます。

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