循環型社会は実現できるのか。プラスチックごみとグリーンウォッシュの実態に迫る『リサイクルの幻想』

 


今回のドキュメンタリー映画紹介は、グリーンウォッシュや環境広告の実態を明らかにし、リサイクルの限界に気付かせるドキュメンタリー『リサイクルの幻想』です。近年、環境問題への関心が高まる中、リサイクルやサステナビリティといった言葉が日常的に使われるようになりました。しかし、私たちが信じている環境ロゴマークやリサイクル100%表示、社会のリサイクルの実態は、果たして理想通りなのでしょうか。企業の広告やパッケージによって一見「エコ」に見える商品が実際に環境や他国の地域に不幸な影響を与えている現実があります。
 

<作品紹介>

ドキュメンタリー作品タイトル:リサイクルの幻想

~環境先進国の政策が招くリサイクルの限界とグリーンウォッシュ問題!持続可能な社会を考える環境問題ドキュメンタリー衝撃作品~

 
制作年/作品時間  2021年製作/作品時間46分
撮影地  ドイツ、デンマーク、トルコ、イギリス、ブルガリア
製作国  ドイツ
監督  トム・コステロ、ベネディクト・ヴェルムター
受賞歴
 2023年 UNAFF(国連協会映画祭)
 2023年 オール・リビング・シングス環境映画祭 
 
「リサイクル率100%」のプラスチック製品の行方を追ったドキュメンタリー。1990年代にドイツで始まった「ゴミの再資源化」キャンペーンは、瞬く間に西欧各国に広がった。しかし30年後の今、回収されたプラスチックゴミの大半は、焼却されて熱エネルギーに変わる。回収、分別、焼却にかかるコストは、税金や商品価格への上乗せでまかなわれている。かつてゴミを送りつけた中国は、2018年に廃プラスチックの輸入を禁止。現在は欧州最貧国のブルガリアの他、世界中の発展途上国に輸出している。「資源循環」を謳いながら、実態はわずか数%のリサイクル。「完全リサイクル」を信じて商品を購入する消費者への、裏切り行為が蔓延している。

[ドキュメンタリー作品・予告編]
 

本ドキュメンタリーは、先進国が推し進めているゴミの再資源化やプラスチックごみのリサイクル化といった環境対策の実態を追跡し、グリーンウォッシュや消費者への裏切りともいえる欺瞞的な行為を暴いた作品です。見どころをお伝えする前に、本作品を興味深く見ていただくために、用語解説や環境対策の実態に関して簡単ではありますが、ご説明いたします。


<解説!グリーンウォッシュ>

■グリーンウォッシュとは■

「グリーンウォッシュ」(Greenwash)とは、環境配慮やエコに良いイメージである「グリーン」とうわべを取り繕う「ホワイトウォッシュ」を合わせた造語で、うわべだけ環境保護に熱心に取り組んでいるようにみせることを意味しています。グリーンウォッシング(greenwashing)とも表現されます。
企業や機関が実際には環境にやさしくない活動を続けながら、まるで環境保護を応援しているかのようなイメージを作り上げる手法です。
グリーンウォッシュは、企業の社会的責任の観点や社会的責任投資にかかわる問題として、公共の分野でも重要な概念となっており、環境保護や気候変動に対する意識の向上につれてその規制や監視が年々強まっています。
 

■グリーンウォッシュの実態例■

・ファーストフードチェーンにおいて、環境対策のためにプラスチックから100%リサイクルできる紙ストローに変更したが、リサイクルに出せず、ゴミとして廃棄していたことが問題視されました。

・オイル企業が環境に優しいと宣伝しているのにもかかわらず、不正なレポートを提供し、データ撤回が発覚したことがあります。

・「プラスチックフリー」を売り文句にする商品が実際にはリサイクルが難しいマテリアルを含んでいることが不明確にされていることがあります。

・「有機」や「オーガニック」素材を利用していると「エコフレンドリー」な良い表現を使いながら、実際は数%しか使用していない製品で誇大表現であることを指摘されることがあります。

<解説!欧州諸国のリサイクル政策とプラスチック輸出>

■欧州諸国のリサイクル政策■

欧州は環境先進国としてリサイクル政策を推進していますが、その実態には課題も存在します。
ドイツでは「デュアルシステム」と呼ばれる廃棄物管理システムがあり、家庭ごみの分別とリサイクル率の向上が求められています。しかし、実際には回収されたプラスチックの約50%が焼却処理されているというデータもあります。
スウェーデンでは廃棄物エネルギー化政策が進められ、リサイクルされないプラスチックごみを燃焼させて電力供給に活用しています。
フランスでは使い捨てプラスチックの使用禁止や、生産者責任の強化を図る法整備が進められており、リサイクルだけでなく「ごみを出さない」方向への移行が試みられています。
このように、リサイクル政策が進んでいる欧州諸国でも、実際には廃棄物輸出や焼却処理が多く、完全な循環型社会の実現にはまだ課題が残されているのが現状です。


■プラスチック輸出実態・データ■

世界的に見ても、多くの先進国は国内でのリサイクル処理が追いつかず、大量のプラスチック廃棄物を発展途上国へ輸出しています。たとえば、2018年のデータによると、EU諸国は年間150万トン以上のプラスチック廃棄物をアジア諸国へ輸出しており、その多くが適切にリサイクルされずに環境汚染を引き起こしています(出典:欧州環境機関European Environment Agency)。また、米国も同様に、毎年約100万トンのプラスチック廃棄物を海外に輸出し、中国の廃プラスチック輸入禁止措置(ナショナル・ソード政策)以降、マレーシアやタイなどの国々に流れ込んでいます。

 

<『リサイクルの幻想』ドキュメンタリー作品の見どころ>

「リサイクルの幻想」は、プラスチックごみ問題とリサイクルの現実に焦点を当てたドキュメンタリー作品です。ドイツ、デンマーク、トルコ、イギリス、ブルガリア、アメリカなど世界各地で取材や撮影が行われました。この映画は、リサイクルの限界やプラスチック廃棄物の輸出問題、そして環境先進国とされる欧州のリサイクル政策の実態を描き出しています。企業の環境配慮を装った「グリーンウォッシュ」の事例にも迫り、リサイクル100%と謳う環境対策や取組みに対して消費者への欺瞞的な行為を訴える場面もあります。
本作の最大の見どころは、私たちが信じてきたリサイクルの現実を赤裸々に描き出している点です。環境先進国とされる欧州諸国のリサイクル政策が、消費者を環境対策へとリードできた面がある一方で、実は環境汚染を引き起こしている実態を知ることで、持続可能な社会の実現には何が必要かを考えさせられます。また、企業のエコ活動やサステナビリティ戦略が「グリーンウォッシュ」に過ぎないケースを取り上げ、環境倫理や環境規制の重要性を訴えています。環境ドキュメンタリーとしての価値が高く、環境ジャーナリズムの視点からも非常に興味深い作品です。


■視聴におすすめの方■

ドキュメンタリーは、社会を生き抜く力を与えてくれます。「リサイクルの幻想」は、環境問題や環境対策を考える一助となるため、多くの方に見ていただきたい作品ですが、以下のような方に特におすすめです。

・環境問題やプラスチックごみ問題に関心のある方
・リサイクルの現実やリサイクル問題について深く知りたい方
・企業の環境戦略やグリーンウォッシュの事例に興味がある方
・環境先進国の政策やプラスチック廃棄物の処理方法に疑問を持っている方
・持続可能な社会やサステナビリティ、ゼロウェイストを目指す活動に取り組んでいる方
・環境教育や環境保護活動に携わる教育者や学生
・環境ドキュメンタリーや環境ジャーナリズムに興味がある方


本作品を通じて、私たちが日常的に行っているリサイクル活動の裏側や、プラスチック廃棄物の輸出による環境汚染の実態を知ることで、私たちが信じているリサイクルの仕組みが、実際には環境問題を根本的に解決していないことが分かります。プラスチックごみの輸出やリサイクル政策の限界を知ることは、持続可能な社会や循環型社会の実現を果たすにはどうするべきか、より良い未来のために何ができるかを考えるきっかけとなる作品です。ぜひご視聴下さい。




◇関連ドキュメンタリーご紹介
環境問題のドキュメンタリー作品では、今回ご紹介した『リサイクルの幻想』以外にも、中国プラスチックリサイクル工場で働く子どもの暮らしを描いた衝撃のドキュメンタリー映画『プラスチック・チャイナ』も公開されています。こちらも是非ご覧になって下さい。

【コラム】おすすめ!必見作品『リサイクルの幻想』

アジアンドキュメンタリーズの配信作品の中から、今、特に注目されている人気の話題作をピックアップしてご紹介させていただきます。
 
ドキュメンタリー作品ページはこちらからご視聴下さい。

『リサイクルの幻想』 https://asiandocs.co.jp/contents/1367


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