特集「ISの消えない傷」(全2本)

◆ソーシャルメディアを使ったプロパガンダ発信
伝統的なイスラム国家「カリフ国家」樹立を宣言したIS(Islamic State「イスラム国」の略)は、YouTubeやTwitterなどのソーシャルメディアを駆使。世界中のイスラム教徒に向けてプロパガンダを発信しました。高解像度のビデオを作成し、投稿にはハッシュタグを付けて広く情報を拡散。その活動は極めて洗練されており、「世界に対して怒りを感じている若者たち」に広く訴えるものがありました。イスラム原理主義的なプロパガンダは多くの共感を呼び、理想郷を求めてISの拠点であるシリアやイラクへ渡航する人も続出。米国調査会社の報告書によると2017年までに外国人戦闘員は110カ国から4万人以上がシリア、イラクに入国。戦闘員の家族や、単身で渡った非戦闘員も含めると数はさらに多くなります。
 
◆子どもと女性に対する洗脳と暴力
ISに連れ去られた子どもたちは全員、同じような思想をたたき込まれます。軍事訓練キャンプで武器を持たされ、異教徒はイスラム教への改宗を強いられるのです。黒ずくめのIS戦闘員が不信心者の支配する町を「解放」し、勝利を祝う儀式として不信心者を斬首する映像を繰り返し視聴。「ジハード(聖戦)って楽しそうだ」と思わせるよう誘導しました。異教徒の子どもを拉致し、訓練キャンプで洗脳。戦闘員や自爆テロ実行犯に仕立てて戦場に送り込むこともありました。また、異教徒の女性は「性奴隷」として人身売買の対象とされました。2018年にノーベル平和賞を受賞した人権活動家のナディア・ムラドさんは「ISによるレイプは武力紛争の混乱で偶発的に発生したものではない。計画的なものだ」と訴えています。
 
◆原理主義がもたらす人権蹂躙
イスラム教国であっても現代社会の世俗法を採用する国家がある一方、ISやタリバンのような原理主義を追求する集団も存在します。女性の権利においては西洋社会では男女同権が当たり前ですが、イスラム教の聖典『コーラン』と言行録『ハディース』では、女性は男性より劣位にあるとされています。このことが、一夫多妻制や幼児婚、夫の暴力の肯定、姦通被害者の処刑など、さまざまな面で女性の人権が踏みにじられる根拠ともなっています。シリア北部のクルド人民兵組織では、全員が女性の部隊を結成。ISとの戦闘で成果を上げたほか、女性の解放も積極的に推進しています。

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