特集「乳母のまなざし」(全0本)

◆乳母という職業を極めた人たち
富裕層の子どもの面倒を見るために世界を股にかけて活動しているプロフェッショナルな乳母がいます。優秀な乳母の年収はおよそ15万ドル(約2100万円)。資格の有無や経験年数等により異なりますが、英国系の乳母の場合、最低でも年収 は700~800 万円です。日本の保育士の平均年収が296万であることを考えると、とても高い給与水準といえます。結婚、出産後も働けるため、女性の仕事の多様化や核家族化とともにその数は増えてきました。乳母になるには、基本的には雇用主との面接が全てですが、雇用する側は「チャイルドケアの専門教育を受けている人に任せたい」という声が多数。より優秀な乳母を目指すための養成学校もあります。
 
◆奴隷?ロボット? 問われる雇用主の人権意識
何百万ものフィリピン人家政婦が海外で働いています。行き先は、近隣のアジア諸国と石油資源に恵まれた中近東諸国が中心。皮肉にも虐待事件の多発により、その境遇が注目されるようになりました。香港では2016年に、「高層ビルの窓ガラス清掃禁止」「適切な宿泊場所と食事の提供」など外国人家政婦の待遇改善を求めたデモが行われました。中東では強姦された女性が被害を訴えると、女性側が処罰対象になるため、被害を訴えるケースが極めて少ないと報じられています。特に出稼ぎ労働者は、有罪となれば母国に強制送還されるため、沈黙することが多くなります。外国人家政婦が社会に浸透しているシンガポールでも、賃金や労働時間は雇用に関する法律の対象外となっており、雇い主によるメイドへの暴力や給料の不払いなどの問題も多発しています。
 
◆歴史の陰で祖国の礎を築いた乳母
西欧の植民地支配が続いた東南アジアでは、現地人、とりわけ女性の権利は大きく制限されていました。オランダ領東インド(インドネシア)もその一つ。現地の女性たちは仕事がないか、あっても単純労働や乳母、家政婦といった職業にしか就くことができませんでした。その中で乳母は唯一、雇い主の文化に触れ、知識を蓄えられる職業だったといえます。歴史の波に翻弄されながらも、乳母という職業を通して自由と権利の本質に触ることができたのです。その体験を生かして、後に祖国独立運動を支えた女性もいます。残された映像から、歴史の功罪、正と負の両面を感じてください。

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