北ベトナムのモン族による誘拐婚「霧の中の子供たち」ドキュメンタリー作品
~アジアの少数民族に残る結婚儀式・伝統的風習と家族の形~

今回のドキュメンタリー映画紹介は、誘拐婚や児童婚の結婚風習を取り上げたドキュメンタリー作品『霧の中の子供たち』です。14歳のひとりの少女が「嫁さらい」という結婚儀式を経験し大人へと成長していく姿が描かれていますが、スマートフォンやSNSなどが普及し始めて、ネット社会で触れる現代と伝統的な風習の狭間で揺れ動く家族の形ー。ベトナム山岳民族の現代を写す考えさせられる作品ですので、ご紹介をさせていただきます。
<作品紹介>
ドキュメンタリー作品タイトル:霧の中の子供たち
~ベトナムのモン族による誘拐婚・児童婚!風習との葛藤を撮影したドキュメンタリー衝撃作品~
原題 | Children of the Mist |
制作年 | 2021年 |
作品時間 | 92分 |
撮影地・製作国 | ベトナム |
監督 | ハー・レ・ジエム |
受賞歴 |
2021年 アムステルダム国際映画祭 最優秀監督賞受賞
2022年 DOCAVIV国際映画祭(イスラエル) 最優秀国際映画賞受賞
2022年 香港国際映画祭 審査員賞受賞
2022年 ミュンヘン国際映画祭(ドイツ) SOS-Kinderdörfer賞受賞
2022年 DOXA映画祭(カナダ) 長編ドキュメンタリー賞受賞
2022年 グアナファト国際映画祭(メキシコ) 最優秀国際ドキュメンタリー作品賞受賞
2022年 コーク国際映画祭(アイルランド) シネマチックドキュメンタリー賞受賞
2022年 台湾国際ドキュメンタリー映画祭 Next Generation賞受賞
2022年 ザグレブ映画祭(クロアチア) Little Stamp賞受賞
2022年 Cinema du Reel映画祭(フランス) クラレンス賞ヒューマニスト・ドキュメンタリー映画製作賞受賞
2023年 ベトナム映画祭 最優秀監督賞受賞
2023年 ベトナム映画祭 Golden Lotus賞受賞
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北ベトナムの山間に暮らすモン族の伝統的風習、「嫁さらい」に巻き込まれた14歳の少女の一部始終をカメラが追った。主人公のジーは学校に通いながら、家業の藍染めや農業、家畜の世話などを手伝う。父親は一日中酒に酔っていて、母が生活を切り盛りするため、子どもは大切な労働力でもあるのだ。春節の祭りの日、ジーはヴァンという少年と懇意になり、彼の家に連れ去られた。母親はジーを取り戻そうとするが、「嫁さらい」に親は関与できない。結婚を迫るヴァンと拒むジー。騒動は学校や両家の親族まで巻き込んで、二転三転してゆく。現代においても女性の人権を認めない、伝統的価値観が根強く残るモン族の社会を描いた作品だ。
[ドキュメンタリー作品・予告編]

<モン族に関して>
東南アジア・北ベトナムの山岳地帯に暮らすモン族 (Hmong)は、中国国内に多く住むミャオ族のグループで、総人口400~500万人程の独自の文化と伝統を持つ少数民族です。クロスステッチを多用した民族衣装が印象的で山地を開墾し農耕生活をしています。

<伝統と現代の狭間で揺れるモン族の文化>
本作『霧の中の子どもたち』では、モン族の結婚儀式のひとつである「嫁さらい」に焦点を当て、現代社会との衝突を描き出しています。
モン族の結婚風習の中でも特に議論を呼ぶのが、未成年の結婚や強制結婚の問題です。児童婚は、文化の一部として根付いている一方で、女性の人権や教育の機会を奪う要因ともなっています。本作では、14歳の少女が伝統と自らの未来の間で揺れ動く様子が映し出されており、現代の社会課題として深く考えさせられる内容となっています。
<ベトナムの少数民族が抱える課題>
ベトナム戦争を経て、社会が急速に近代化する一方で、モン族の伝統的な生活や価値観は今もなお根強く残っています。ベトナムの結婚習慣や民族風習がどのように変化しつつあるのかを、本作はリアルに伝えています。特に女性の地位や権利に関する問題は、世界中で注目されているテーマのひとつです。モン族の文化では、家族の絆が非常に重要視されますが、それがときに個人の自由を制限する要因にもなり得ます。本作を通じて、伝統と現代社会の狭間で揺れる人々の姿を目の当たりにすることができます。

<アジアに根付く誘拐婚や強制婚、児童婚の実態>
アジアでは「誘拐婚」や「強制結婚」といった文化が、地域によって今もなお存在しています。特に少数民族の間では、家族の絆や伝統を重んじる一方で、若い女性の意思が尊重されないケースも多く見られます。
■アジア各地の誘拐婚
【キルギス】
例えば、キルギスでは「アラ・カチュー」と呼ばれる誘拐婚が今もなお一部で続いており、女性が拉致され、家族の圧力によって結婚を強いられるケースがあります。この慣習は法律で禁止されていますが、地域によっては根強く残っています。
【カザフスタンやウズベキスタン】
他にも、カザフスタンやウズベキスタンでも、似たような強制結婚の慣習が存在し、ネパールの一部地域では、経済的な理由から早期結婚(児童婚)が行われることがあり、特に貧困層の家庭で見られます。
【インドやパキスタン】
インドやパキスタンでは、ダウリー(持参金)文化の影響で、家族が早い段階で結婚を決めてしまう実態が残っています。
<モン族の民族風習のドキュメンタリー視聴のおすすめ>

『霧の中の子供たち』では、14歳の少女が伝統の名のもとに望まぬ結婚へと進まされる姿が映し出されており、児童婚や女性の人権問題を考えるうえで非常に重要な作品となっています。
本作の魅力は、単なる社会問題の提示にとどまらず、映像を通じてベトナムの少数民族の生活や文化を深く知ることができる点にあります。農村の暮らし、家族の関係性・家族の絆、そして結婚に対する価値観など、多くの要素が繊細に描かれています。
また、本作品はベトナムのドキュメンタリー作品として、現地のリアルな社会的課題を浮き彫りにしています。文化と習慣、そして社会の変化が交錯する中で、何を守り、何を変えていくべきなのか。本作を観ることで、社会を生き抜く力を養い私たち自身も考えさせられることでしょう。
ぜひ、『霧の中の子どもたち』を通じて、ベトナムの民族風習や社会問題について理解を深めてみてください。
◇関連ドキュメンタリーご紹介
今回ご紹介したモン族は、中国国内に多く住む「ミャオ族」のグループです。そのミャオ族のドキュメンタリー映画『ミャオ族の聖歌隊』も公開されています。
[サイトURL:https://asiandocs.co.jp/contents/272]
[サイトURL:https://asiandocs.co.jp/contents/272]
素敵なドキュメンタリー作品でしたので、こちらも是非ご覧になって下さい。
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