オーバーツーリズム問題と観光業の実態に迫る「ラスト・ツーリスト」ドキュメンタリー作品

観光客や観光業界における観光公害・オーバーツーリズムは、世界各地で深刻な問題となっています。日本においてもインバウンド需要が年々高まり、実感するようになってきました。今回のドキュメンタリー映画紹介は、オーバーツーリズム問題と観光の裏側に迫る『ラスト・ツーリスト』です。これからの観光のあり方を一緒に考えませんか?それでは作品紹介をさせていただきます。
<作品紹介>
ドキュメンタリー作品タイトル:ラスト・ツーリスト
~オーバーツーリズムを招く観光産業の衝撃実態とサスティナブルツーリズムを示唆するドキュメンタリー作品~
原題 | The Last Tourist |
制作年/作品時間 | 2021年製作/作品時間101分 |
撮影地 | タイ、ペルー、ケニア、インド、カンボジア他 |
製作国 | カナダ |
監督 | タイソン・サドラー |
受賞歴 | 2021年 カルガリー国際映画祭 2021 カナダのドキュメンタリー映画特集、ジュリー賞:ソーシャルインパクト受賞
2021年 カナダ撮影監督協会賞 ロバート・ブルックス賞ドキュメンタリー映画賞、最優秀ドキュメンタリー撮影賞受賞
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押し寄せる観光客、大量のごみ、労働力の搾取、動物虐待……いま世界中で起きている“観光公害”の実態を映像に収めた作品。1960年代に飛行機旅行が大衆化して以降、旅行者は世界中を旅することが可能になった。その足は、古代遺跡や自然遺産などの有名スポットだけでなく、先住民族が暮らす集落や信仰上の聖地などへも向かった。観光客が求めるものはSNSに投稿するための写真と、西洋風の環境。異文化に触れることもなく、資源を大量消費して、次の目的地に向かう。旅行会社は高額なパッケージを売るが、観光地の労働者は薄給のままだ。外資が地元の経済と文化を侵食するだけの“観光バブル”は、いまも拡大を続けている。成長を続ける観光産業の、負の側面に迫るドキュメンタリーだ。
[ドキュメンタリー作品・予告編]

<観光関連概況>
観光の状況について「世界の観光客数」、「世界のGDP成長率」、「訪日外国人旅行者(万人)」を2000年、2010年、2019年(コロナ禍前)、2020年の推移をまとめました。
年 | 2000年 | 2010年 | (2019年) | 2020年 |
世界の観光客数(億人) | 6.7億人 | 9.6億人 | (14.7億人) | 4.1億人 |
世界のGDP成長率(%) | 4.8% | 5.4% | (2.9%) | ▲2.7% |
訪日外国人旅行者(万人) | 476万人 | 861万人 | (3,188万人) | 412万人 |
(データ出所:「世界の観光客」数国連世界観光機関 「世界のGDP成長率」:IMF World Economic Outlook )
世界の観光客数は、経済成長とともに、コロナウィルス感染症が世界に蔓延する2019年まで伸び続けていました。日本においても2000年頃は約500万人程でしたが、3,000万人を超えるほど、海外からの外国人旅行者が増え、日本の観光地はインバウンド需要が高まりました。
<オーバーツーリズムとは?>

オーバーツーリズムとは、特定の観光地に過剰な数の旅行者が訪れることで、地域の環境や社会に悪影響を及ぼす現象のことを指します。近年、世界の経済成長や格安航空券、SNS等の普及により、世界各地で観光客が急増しています。その結果、観光地の混雑、文化遺産の損傷、地元住民の生活環境の悪化など、さまざまな問題が発生しています。
■オーバーツーリズムの問題点■
・環境への影響観光客の急増により、自然環境が大きく破壊されるケースが増えています。例えば、観光客による大量のごみの廃棄・海洋汚染、過剰な開発による生態系の崩壊、トレッキングコースの過剰利用による森林破壊などが問題視されています。
・文化・伝統への影響
観光客の増加は、地元の文化や伝統にも影響を及ぼします。例えば、歴史的建造物の劣化、伝統的な生活様式の消失、観光地化による文化の商業化などが挙げられます。
・地元住民の生活への影響
観光地の家賃や物価の高騰により、地元住民が住みにくくなるケースも少なくありません。また、観光客のマナーの悪さによって、騒音問題や交通渋滞などの社会問題が発生することもあります。

<ラスト・ツーリストが示唆する観光産業のあり方>
『ラスト・ツーリスト』は、現代の観光産業における深刻な問題を描くドキュメンタリー作品です。観光業の発展は経済に大きな貢献をしましたが、その一方で、観光過多の地域では観光公害・オーバーツーリズムが問題となっています。本作品はその問題の背景を描きながら、持続可能な観光、すなわちサステイナブルツーリズムについて考えさせられる作品です。
観光業は多くの国々で経済の基盤を支える産業ですが、その急激な成長がもたらす負の側面も無視できません。オーバーツーリズムによって観光地が過剰に開発され、環境が破壊されたり、地域住民の生活が脅かされたりする問題が各地で発生しています。本作品では、こうした観光産業の課題を浮き彫りにし、未来の観光のあり方について問いかけます。


<具体的な観光業の問題点>
本作品は、世界各国の観光地で発生している観光産業の問題に焦点を当てています。観光業の発展により、地域経済は活性化しますが、一方で、大量のごみの発生、労働力の搾取、地元住民への悪影響など、多くの問題も浮かび上がっています。また観光客自身が気づきにくい問題として無秩序な写真撮影における観光客のマナー、観光地の施設や遺産・遺構の劣化、観光を盛り上げるための動物たちの調教や厳しい環境などにも影響を及ぼしていると示唆されています。まさに小さな変化が大きな影響を及ぼすことがあるバタフライエフェクト(バタフライ効果)ともいえる状況が観光地で起こっています。
<世界各地のオーバーツーリズム事例と解決策>
◇ベネチア(イタリア)◇
ベネチアでは観光客の増加により、運河の水質悪化や地元住民の流出が深刻な問題となっています。これに対し、入場制限や観光税の導入といった対策が講じられています。
◇バルセロナ(スペイン)◇
バルセロナでは、観光客による騒音やごみの増加が問題となり、住民の生活環境が悪化しました。これに対応するため、市政府は宿泊施設の新規許可を制限し、観光客の分散化を促進しています。
◇京都(日本)◇
京都では、観光客による交通渋滞やゴミ問題が発生しています。地元住民の負担を軽減するため、観光地へのアクセス規制や観光マナー啓発の取り組みが進められています。
■サステイナブルツーリズムの取り組み■
持続可能な観光を実現するためには、環境保護や地域住民との共生を重視した観光スタイルが求められます。■エコツーリズム■
環境負荷を抑えつつ自然を楽しむエコツーリズムが注目されています。例えば、国立公園の保護活動やエコツアーの推進などがその一例です。■責任ある旅行(レスポンシブルツーリズム)■
旅行者自身が環境や文化を尊重することも重要です。地域の文化を学び、環境に配慮した行動を心がけることで、持続可能な観光を支えることができます。
<ラスト・ツーリストのドキュメンタリー作品考察>
■観光が地域社会に及ぼす影響を考える
観光が地域経済を支える一方で、観光客の増加が地域社会に悪影響を及ぼすことがあります。例えば、観光地の環境問題、文化の喪失、地元住民の生活環境の悪化などが挙げられます。
観光地が訪問者を迎えるために、インフラを拡大しすぎることで本来の景観が失われたり、地元住民の暮らしが変化してしまうこともあります。特に、観光客の急増が住宅価格の高騰を引き起こし、地元住民が住み慣れた場所を離れざるを得ない状況になるケースも少なくありません。
■観光の未来を考える
持続可能な観光を実現するためには、エコツーリズムやレスポンシブルツーリズム・責任ある旅行の概念を広めることが重要かと思います。本作品では、観光客が地域文化や自然環境を尊重しながら旅をすることの大切さを伝えています。
環境に優しい観光の形として、地元の伝統や文化を大切にしながら滞在する「スロー・ツーリズム」の推進や、環境負荷を抑えるための観光政策を理解しながら、観光客自身が自らの旅行がどのような影響を及ぼしているのかを考え、責任ある選択をすることが求められています。
また、観光業界全体の変革も必要とされています。宿泊施設や観光関連企業が労働力の搾取を防ぎ、フェアトレードな取り組みを推進することが求められています。観光業を成長させながらも、持続可能性を確保するためのバランスをどう取るかが重要な課題となっています。
<社会を生き抜く力を養うドキュメンタリー作品はこんな方におすすめ!>
「観光産業の現状に関心がある方」、「世界の観光政策に興味がある方」、「持続可能な旅行について学びたい方」、「オーバーツーリズムや観光地の環境保護、地域社会への影響について知りたい方」、「観光客のマナーや倫理について考えたい方」など『ラスト・ツーリスト』は、観光産業の未来を見据えたドキュメンタリー作品です。観光のあり方について深く考え、より良い旅行の形を模索するために、ぜひご覧ください。
本作品を通じて、持続可能な観光の実現に向けた意識を高め、観光客としての行動を見直すきっかけになれば幸いです。
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