イラク・ヤジディ教徒の悲劇と拉致洗脳された子ども兵!戦争トラウマと家族再生を描くドキュメンタリー『わたしの、幼い息子イマド』

今回のドキュメンタリー映画紹介は、襲撃や拉致された親子が抱える戦争トラウマからの再生を描く『わたしの、幼い息子イマド』です。イラクではIS(ISIL・ISISイスラム国)によるヤジディ教徒の虐殺が発生しました。拉致された子どもたちは、IS戦闘員によって洗脳され児童兵として育てられました。拉致とジェノサイドの影響を受けたヤジディ教徒の少年・イマドは、残虐性と攻撃的な態度を示します。母親と児童心理学者たちはどう向き合い、家族再生していくのかー。それでは作品紹介をさせていただきます。
<作品紹介>
ドキュメンタリー作品タイトル:わたしの、幼い息子イマド
~ISの襲撃拉致によるイラク・ヤジディ教徒の悲劇と児童兵が抱える戦争PTSDからの再生ドキュメンタリー衝撃作品~
原題 | Imad's Childhood |
制作年/作品時間 | 2021年製作/作品時間77分 |
撮影地 | イラク |
製作国 | スウェーデン、イラク、ラトビア |
監督・脚本・製作 | ザハヴィ・サンジャヴィ |
受賞歴 | 2021年 ホットドックス カナダ国際ドキュメンタリー映画祭
2022年 ミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭
2022年 テッサロニキ ドキュメンタリー映画祭
2021年 オースティン映画祭
|
クルド人でヤジディ教徒の男の子イマドは2歳のときIS(イスラミック・ステート)に拉致され、2年以上拘束された後に解放された。拘束中はIS戦闘員に連れ回され、銃の扱いを練習。殺人や斬首の映像を見て育った。大人の男と一緒にいることを好み、女性やヤジディ教徒を敵視。同世代の子どもを殴り、人形の首を切って遊ぶ。凶暴な発言と暴力的な行動に、周囲の大人もなす術がない。孤立するイマドに、母と祖母、児童心理学者のベリバンが寄り添うが、母のガザラは夫が拉致されたまま戻らず、自身も性奴隷にされた恐怖体験から立ち直れずにいる。IS統治の被害に遭った子どもや女性たちが、平和な日常を取り戻すために困難な道を進む姿を克明に捉えた作品だ。
[ドキュメンタリー作品・予告編]

<『わたしの、幼い息子イマド』ドキュメンタリー作品の概略>
2014年、イラク北部のシンジャール地方で、イスラム国(IS)による「ヤジディ教徒の虐殺」が発生しました。強制される改宗の中、数5000人が殺害され(国連発表)、数千人のヤジディ教徒が捕虜や奴隷として拉致され、家族が引き裂かれました。この事件は、ジェノサイドとして国際的に非難され、ドキュメンタリー映画『わたしの、幼い息子イマド』は、その犠牲となった家族の一つを追い、戦争トラウマと戦い日常生活を取り戻す姿を描いています。

<ヤジディ教徒の虐殺の概要と被害状況>
■ヤジディ教徒の虐殺の概要■
イラクの第2都市モスル等イラクの3分の1以上を制圧していたISは、2014年8月ヤジディ教徒の聖地であるシンジャール地区への侵略を開始。シンジャールに住む約40万人ものヤジディ教徒に対して「強制改宗キャンペーン」と表現しながら襲撃しました。多くのヤジディ教徒を殺害し、拉致や難民に追いやり、土地が破壊されました。
■イラクの戦い・ヤジディ教徒の虐殺など被害状況■
国連の調査発表によると、ISがクルド系少数派のヤジディ教徒約40万人を組織的に拘束し、2014年8月以来、集団虐殺などで約5,000人のヤジディ教徒が死亡し、数千人~1万人程が誘拐され、奴隷やレイプ被害が発生。改宗か死を迫られ、人身売買の対象にされました。
数十万の難民が発生したヤジディ教徒の虐殺後、今でも数千人の行方不明者が出たままであり、半数は当時子どもだったとされています。拉致された子どもたちは、ヤジディ教徒=悪として洗脳や戦闘訓練を強いられ、児童兵(子ども兵士)にされました。


<ヤジディ教に関して>
ヤジディ教(ヤズィーディー・Yazidi)は、 中東イラク北部などに住むクルド人の一部において信じられている民族宗教。ヤジディ教は一神教ですが、神に背き、人と神の仲介者の役割を果たす「マラク・ターウース」という天使がその信仰の中心にあります。ヤジディ教徒による「マラク・ターウース」の描写は、イスラム教徒にとって、コーランに記されたシャイターン(サタン・悪魔)に重なる部分が多いよう捉えられ、その信仰は、何世紀にもわたり嫌悪の対象となってきたようです。ヤジディ教徒は悪魔を崇拝する異端者とみなされ、何度もジェノサイド(大量虐殺)の危機に直面してきた過去があります。
ヤジディ教徒はイラク北西部の山岳地帯やシンジャール地区に何世紀にもわたり居住して、2014年頃50万人近くの信者がいたとされています。
<児童兵・子ども兵として洗脳・訓練された子どもたち>
本ドキュメンタリー作品の主人公は、ヤジディ教徒のクルド人少年イマド。彼は2歳のときにISに拉致され、長期間にわたり過酷な環境下で生活を強いられました。訓練キャンプのIS戦闘員によって、ヤジディ教徒は悪魔であり、虐殺する対象という洗脳や暴力的な環境の影響をうけながら、こども兵士として育てられます。その後、イマドは家族と再会を果たしますが、戦争PTSDや攻撃的な態度、子どもの感情起伏の激しさに直面することになります。


■児童兵の実態と心理■
拉致した子どもを児童兵・こども兵士として養成し、爆弾の運搬や戦闘訓練を施す。幼少期から暴力的な環境にさらされた子どもたちは、攻撃的な態度を示し、戦争の恐怖体験が人格形成に深刻な影響を与えます。戦争と子どもの心理に関する研究では、こうした児童兵は社会復帰が難しく、トラウマを抱え続けることが多いとされています。
児童兵として育った子どもたちの心理的ケアやリハビリテーションが必要です。子どもたちは、戦争PTSDを抱えながらも、家族によるケアや児童心理学者などの専門家の支援を受けて回復を目指します。戦争メンタルヘルスの専門家による治療や、戦争と教育を通じた適応プログラムが、彼らの社会復帰を助ける鍵となっています。
<『わたしの、幼い息子イマド』・戦争ドキュメンタリー作品はこんな方におすすめ!>
本作は、IS襲撃による被害を受けたヤジディ教徒の一家が、戦争トラウマや戦争恐怖体験と向き合いながら、社会復帰を目指す過程を丁寧に追ったドキュメンタリーです。
イマドは、日々洗脳されISの残虐行為を目の当たりにし、一般的な価値観とは異なる世界で育ちました。こども兵士としての拉致経験が彼の精神や暴力的な行動に影響を及ぼしており、また家族自体も戦争のトラウマに悩まされながら、どのように彼を受け入れるかの葛藤が描かれています。簡単には戻れないリアルな日常が克明に描かれています。
「こども兵士が受ける精神的影響や、戦争PTSDの実態を知りたい方」や「児童心理学やメンタルヘルスに興味がある方」、「イラク紛争やISによる拉致被害、ヤジディ教徒の悲劇を知りたい方」、「実際の戦争被害者がどのように生き抜くのかを見てみたい方」、そして戦争や国際問題に関心がある方まで、多くの方にご視聴をおすすめする作品です。

『わたしの、幼い息子イマド』は、ただのドキュメンタリーではなく、戦争が子どもや家族に与える深刻な影響と現実を痛烈に描いた作品です。児童兵として育てられた子どもと戦争被害を受けた家族が葛藤や愛情を通じて、乗り越えようとする人々の姿を描いた作品です。
拉致被害にあう子ども、児童兵として戦争に送り込まれる子どもたちの悲劇は決して過去のものではありません。戦争下にある子どもたちが直面する困難を知り、世界の現実に目を向けるきっかけとして、ぜひご覧ください。
【コラム】おすすめ!必見作品『わたしの、幼い息子イマド』
アジアンドキュメンタリーズの配信作品の中から、今、特に注目されている人気の話題作をピックアップしてご紹介させていただきます。
ドキュメンタリー作品ページはこちらからご視聴下さい。
『わたしの、幼い息子イマド』 https://asiandocs.co.jp/contents/250
カテゴリ
お気に入り登録
お気に入り登録数:0