ダライ・ラマ14世が最後の輪廻転生者?チベット仏教最高指導者の教えと生涯を追う映画『最後のダライ・ラマ』

チベット仏教では、最上位クラスのラマ(僧侶の敬称)は化身ラマとして輪廻転生し、「ダライ・ラマ」を継承する転生系譜があります。現在の第14代ダライ・ラマ法王は、第13代ダライラマが没したあと、輪廻転生し4歳でダライ・ラマ14世として認定されました。1940年に即位し85年以上在位中ですが、輪廻転生せず、ダライラマ15世は誕生しないと宣言しています。今回のドキュメンタリー映画は、人生のほとんどを亡命したインドやチベット国外で過ごすことになったチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の生涯と思想を追った貴重なドキュメンタリー『最後のダライ・ラマ』です。それでは作品紹介をさせていただきます。
<作品紹介>
ドキュメンタリー作品タイトル:最後のダライ・ラマ
~チベット仏教指導者最後の輪廻転生ダライラマ14世!チベット問題、亡命政府を経た人生と真意に迫るチベットドキュメンタリー~
制作年 | 2017年製作 |
作品時間 | 作品時間82分 |
撮影地・製作国 | インド・アメリカ |
監督 | ミッキー・レムル |
本作は、1991年に世界で初めて制作されたチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ法王14世に関するドキュメンタリー「亡国の悲しみ」の当時の貴重なインタビュー映像も交えながら、80歳を迎えたダライ・ラマ法王14世がその生涯をかけて何をめざしているのかを、交流のある多くの人々と、法王自身の貴重な証言によって綴られたドキュメンタリー映画です。法王は、ダライ・ラマの転生に介入してくる中国政府に対し、「中国政府がチベットの化身ラマに関与したければ、まずは政府が仏教を受け入れ、輪廻転生を信じなければならない」と証言しています。そして彼は、2014年11月に、「自分は転生しない。従ってダライ・ラマ法王15世は誕生しない」と述べました。チベットの歴史において、ダライ・ラマ14世は、本当に最後のダライ・ラマなのでしょうか。その真意に迫ります。
[ドキュメンタリー作品・予告編]

<解説!輪廻転生と歴代ダライ・ラマ・チベットの歴史>
チベット仏教は、インド仏教を伝承し、チベットを中心に発展している 「大乗仏教」の一派です。ラマと呼ばれる師僧、「化身ラマ」を尊崇しており、すべての衆生を涅槃に導き救い終わるまで、何度でもこの世に化身として生まれて来るとされているため転生ラマと呼ばれます。最上位のラマが輪廻転生し、代々「ダライ・ラマ」を名跡します。「ダライ」とは、モンゴル語で「大海」を意味し、「ラマ」はチベット語で「師(教師・指導者)」を意味します。
チベット仏教は、チベット民族だけでなく、ネパール、ブータン、モンゴルなどでも信仰されています。

■ダライ・ラマ1世~14世の一覧と生没年■
以下は、ダライ・ラマ1世から14世までの一覧です。
ダライ・ラマ法王 代数 | 名前 | 生没年 |
ダライ・ラマ1世 | ゲンドゥン・ドゥプ | 1391年-1474年 |
ダライ・ラマ2世 | ゲンドゥン・ギャツォ | 1475年-1542年 |
ダライ・ラマ3世 | スーナム(ソナム)・ギャツォ | 1543年-1588年 |
ダライ・ラマ4世 | ユンテン・ギャツォ | 1589年-1617年 |
ダライ・ラマ5世 | ロサン・ギャツォ | 1617年-1682年 |
ダライ・ラマ6世 | ツァンヤン・ギャツォ | 1683年-1706年 |
ダライ・ラマ7世 | ケルサン・ギャツォ | 1708年-1757年 |
ダライ・ラマ8世 | ジャムペル・ギャツォ | 1758年-1804年 |
ダライ・ラマ9世 | ルントク・ギャツォ | 1805年-1815年 |
ダライ・ラマ10世 | ツルティム・ギャツォ | 1816年-1837年 |
ダライ・ラマ11世 | ケードゥプ・ギャツォ | 1838年-1856年 |
ダライ・ラマ12世 | ティンレー・ギャツォ | 1857年-1875年 |
ダライ・ラマ13世 | トゥプテン・ギャツォ | 1876年-1933年 |
ダライ・ラマ14世 | テンジン・ギャツォ | 1935年-現在 |
<ダライ・ラマ14世の生涯とメッセージ>
■ダライ・ラマ14世の生誕と即位■
ダライ・ラマ14世の生い立ちは、1935年チベット北部アムドの農家の子どもとして生まれ、幼名はラモ・ドンドゥプと名づけられていました。第13代ダライ・ラマが没した後、チベット政府のダライ・ラマの化身捜索隊によって3歳の頃に見つけ出し、第13世ダライ・ラマ「トゥプテン・ギャツォ」の転生と認定され、「テンジン・ギャツォ」と名付けられた。1940年、ポタラ宮殿に入り、チベットの精神的指導者として即位しました。

■中華人民共和国によるチベット併合とダライ・ラマ14世の亡命■
1949年に建国した中華人民共和国は、1950年に人民解放軍がチベット東部を制圧し、1951年チベット全土を制圧するチベット侵攻が発生しました。中国によるチベット併合でチベットの君主としての在位は1951年に終わりました。
1959年中国政府によるチベットの統治強化に反発し、大規模なチベット蜂起が発生しました。(チベット動乱)この際、ダライ・ラマ14世は対応を苦慮し、インドへ亡命し、ダラムサラにチベット亡命政府を設立しました。それ以来、ダライ・ラマ14世は、亡命チベットの国家元首を務め、1989年には、ノーベル平和賞を受賞(非暴力によるチベット解放闘争と寛容と相互尊重に基づく平和的解決の提唱)し、2011年には、政府の長から引退し、チベットの政教両面の権威者の座に即くというダライ・ラマ5世以来の伝統を終わらせることになりましたが、現在に至るまでダライ・ラマ亡命政府の精神的指導者として活動を続けています。
■なぜ「最後のダライ・ラマ」なのか?■
「最後のダライ・ラマ」と呼ばれる背景には、ダライ・ラマ14世が次の転生を認めるかどうかについての議論があります。2014年11月に、「自分は転生しない。従ってダライ・ラマ法王15世は誕生しない」と述べました。自らの転生について、次のダライ・ラマの選出が行われない可能性も示唆しています。これは本作品をご覧いただければ分かりますが、既存の方法で生まれ変わるのは最後にしたいという意味で、既存の制度によって認定されるダライ・ラマとしては自分で最後ということを示唆しています。
中国によるチベット宗教弾圧やダライ・ラマ転生に関する干渉などへの圧力を強めており、今後の行く末が案じられています。

◇ダライ・ラマ14世の有名な教えや名言◇
チベット仏教の最高指導者として、仏教の法話はもとより、ダライ・ラマ法王14世が発信する教え、メッセージを通じて、多くの方や現代社会に影響を与えています。ダライ・ラマ14世の教えは、慈悲、平和、非暴力を基本としています。ほんの一部ですが、代表的な教えやダライ・ラマ14世の名言としてご紹介します。
「愛と慈悲は、私たちが人生で最も大切にするべきものです。」
「幸福の根源は利他主義です。つまり、他者に奉仕したいという気持ちです。」
「怒り、いさかい、嫉妬、激しい競争によって友情は生まれるでしょうか。友をつくる最良の方法とは、非常に思いやりのある人間になることです。親愛の情だけが、真の親友をもたらします。」
「誰もが生まれつきの敵であったり、友であったわけではありません。“敵”も“友”も、自分が人々とどう接するかで生まれるのです。」
「平和は強制されるものではなく、内なる意識から生まれるものです。」
「あなた自身を敬う気持ち、他の者を敬う気持ちを持ち、あなたの行動に責任を持ちなさい。」
「宗教は、人間社会にさらに分裂要素を生み出すことで、争いの種となってはならない。」
「他人の何千もの欠点に目をつけるより、自分の唯一の欠点に気付くほうがよほど役に立ちます。自分の欠点なら、わたしたちは自信をもって修正できる立場にあるからです。」

<『最後のダライ・ラマ』ドキュメンタリー作品の見どころ>
「最後のダライ・ラマ」は、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世の生涯と思想を描いたドキュメンタリーです。本作では、彼の幼少期からチベット亡命政府の指導者としての歩み、そして輪廻転生をめぐる問題について深く掘り下げられ、世界各地での活動や接する人々へのメッセージの数々にも触れることができます。作品中には、アメリカの心理学者ポール・エクマンとダライ・ラマ14世によって分類された感情地図も説明されており、感情を科学的に探究する姿も描かれています。
ダライ・ラマ本人へのインタビューを通じて、彼の哲学や未来への想いを感じることできる作品であり、ダライ・ラマ法王14世の言葉には、数千年にわたるチベットの宗教と哲学が凝縮されており、平和や慈悲の大切さを考えさせられます。
■本作はこんな方におすすめ!■
『最後のダライ・ラマ』は、単なる宗教や歴史ドキュメンタリーではなく、ダライ・ラマの教えとメッセージを現代に活かすためのヒントを与えてくれる作品であり、多くの方が共感できるドキュメンタリーです。
ダライ・ラマ14世の思想や哲学に興味がある方はもちろん、チベット仏教やその宗教儀式について学びたい方、輪廻転生の考え方を知りたい方、チベット文化や伝統を深く理解したい方には必見の作品です。
「虚空が存在する限り 人のあらゆる感情が存在する限り 苦しみが存在する限り 私も存在し人々を救います」
ダライ・ラマ法王14世
2025年7月、ダライ・ラマ14世は90歳を迎えます。ダライ・ラマの輪廻転生、後継者選びはどうなるのかー。

◇関連ドキュメンタリーご紹介
チベット仏教の作品では、今回ご紹介した『最後のダライ・ラマ』以外にも、チベット仏教の瞑想と神秘に迫るドキュメンタリー映画『トゥクダム 生と死の境界』も公開されています。こちらも是非ご覧になって下さい。
【コラム】おすすめ!必見作品『最後のダライ・ラマ』
アジアンドキュメンタリーズの配信作品の中から、今、特に注目されている人気の話題作をピックアップしてご紹介させていただきます。
ドキュメンタリー作品ページはこちらからご視聴下さい。
『最後のダライ・ラマ』 https://asiandocs.co.jp/contents/42
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