ブラック企業に屈せず合同労組に入り3年間の労働紛争・訴訟を記録したドキュメンタリー作品『アリ地獄天国』
「ブラック企業」・「社畜」・「働き方改革」などの言葉が表すように、日本の労働環境は依然として多くの課題を抱えています。長時間労働、残業未払い、ハラスメント、労働基準法違反など、不当な扱いが後を絶たず、コロナ禍を経て数年がたった今でも雇用や生活への不安はさらに増しています。今のようにホワイト企業や退職代行といった言葉や風潮がなかった時代に一本のドキュメンタリー映画が静かな衝撃を与えています。それが今回ご紹介するドキュメンタリー映画『アリ地獄天国』です。本作は、ある引越会社で働く一人の男性が、ブラック企業ともいえる理不尽な会社の体制に異議を唱え、個人加盟の労働組合「合同組合」と共に3年間闘い抜いた軌跡を記録した作品です。単なる告発に留まらず、人間の尊厳をかけた闘いを描いた作品をご紹介します。

<作品紹介>
ドキュメンタリー作品タイトル:アリ地獄天国
~ブラック企業の労働基準法違反・不当解雇と闘う労働者と合同労組!衝撃的な労働問題とリアル労働訴訟ドキュメンタリー映画~
制作年/作品時間 | 2019年製作/作品時間98分 |
撮影地 | 日本 |
製作国 | 日本 |
監督 | 土屋トカチ |
受賞歴 |
2021年 第1回日本の窓ドキュメンタリー映画祭(フランス) 2021賞受賞
2020年 第20回ニッポン・コネクション 第1回ニッポン・オンライン賞受賞
2020年 米国ピッツバーグ大学・日本ドキュメンタリー映画アワード グランプリ賞受賞
2020年 門真国際映画祭 ドキュメンタリー部門:優れたパフォーマンス賞受賞
2020年 第34回キネマ旬報ベスト・テン 文化映画ベスト・テン 第8位賞受賞
2020年 第14回福井映画祭 長編部門観客賞受賞
2019年 日本貧困ジャーナリズム賞受賞
2022年 第34回ドキュメンタリー映画エステートジェネラル(フランス) オフィシャルセレクション
2020年 トルコ国際労働者映画祭 オフィシャルセレクション
2019年 山形国際ドキュメンタリー映画祭 オフィシャルセレクション
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高収入を求め、システムエンジニアから引越会社の営業へ転職を決断した西村さん(仮名)。転職先で彼を待っていたのは、独自の就業規則と給与体系だった。資材の紛失や破損、車両の傷は社員の自己負担。労働時間は1日平均19時間に達したが、残業代は付かない。営業車で出勤中に交通事故を起こし、車の修理費用48万円の支払いを命じられた西村さんは、個人加盟の労働組合(合同労働組合)に駆け込んだ。組合員となり会社との団体交渉に臨んだものの、会社は交渉の席につかず、西村さんを給与の低いシュレッダー係に異動させた。会社を相手に訴訟に踏み切ったものの、会社がとった手立ては西村さんの懲戒解雇(不当解雇)だった。ブラック企業を相手に戦い続けた青年の、切実な思いを記録した作品だ。
[ドキュメンタリー作品・予告編]
作品の舞台は引越会社。しかし、従業員たちは自らの職場を「アリ地獄」と自嘲していました。その理由は、今でいうブラック企業の体質。そして過酷な長時間労働に加え、業務中の事故や荷物破損などの際の弁済は自分の給与から天引きされ、多額の借金を背負わないといけないという会社のシステムにありました。従業員自身が名付けた「アリ地獄」という呼称は、会社のこのような搾取構造への社員の意識からつけられたものでした。
主人公は、西村有さん(仮名)、当時34歳の営業職で元SEから転職し、営業成績トップになるほど優秀な社員でした。しかし、業務中の事故で会社から高額な弁済金(48万円とも言われる)を請求されたことをきっかけに、彼の日常は一変。理不尽な要求に疑問を抱いた西村さんは、社内に相談相手を見つけられず、一人でも加入できる個人加盟型の労働組合「プレカリアートユニオン」に相談します。
組合に加入し、会社に異議を唱えた途端、会社からの驚くような報復が始まりました。営業職からシュレッダー係へと理不尽な配置転換を命ぜられたのです。しかも給与は半減いう侮辱的な扱いを受けます。さらに会社は西村さんを理由をつけて懲戒解雇し、その「罪状ペーパー」を全国の支店に掲示するというありえない行動に出ました。さらに人種差別的な発言や実家への退職を迫る手紙などの嫌がらせは執拗を極め、経済的・社会的・精神的に彼を追い詰めようとしました。
こんな、不当解雇や人間の尊厳を奪うような行動に対して、それでも西村さんは屈しませんでした。ユニオンの支援を受け、抗議活動によって懲戒解雇は撤回。しかし復職先はシュレッダー係のままというもはや労働者の未来はないような扱いでした。会社に反省の色が見られない中、西村さんは「まともな会社になってほしい」という一心で、3年間にわたる長い闘いを続けます。映画は、この過酷な闘いの中で、彼が精神的な強さを増し、変化していく姿を捉えています。

<『アリ地獄天国』ドキュメンタリー作品の概略>
作品の舞台は引越会社。しかし、従業員たちは自らの職場を「アリ地獄」と自嘲していました。その理由は、今でいうブラック企業の体質。そして過酷な長時間労働に加え、業務中の事故や荷物破損などの際の弁済は自分の給与から天引きされ、多額の借金を背負わないといけないという会社のシステムにありました。従業員自身が名付けた「アリ地獄」という呼称は、会社のこのような搾取構造への社員の意識からつけられたものでした。

主人公は、西村有さん(仮名)、当時34歳の営業職で元SEから転職し、営業成績トップになるほど優秀な社員でした。しかし、業務中の事故で会社から高額な弁済金(48万円とも言われる)を請求されたことをきっかけに、彼の日常は一変。理不尽な要求に疑問を抱いた西村さんは、社内に相談相手を見つけられず、一人でも加入できる個人加盟型の労働組合「プレカリアートユニオン」に相談します。


こんな、不当解雇や人間の尊厳を奪うような行動に対して、それでも西村さんは屈しませんでした。ユニオンの支援を受け、抗議活動によって懲戒解雇は撤回。しかし復職先はシュレッダー係のままというもはや労働者の未来はないような扱いでした。会社に反省の色が見られない中、西村さんは「まともな会社になってほしい」という一心で、3年間にわたる長い闘いを続けます。映画は、この過酷な闘いの中で、彼が精神的な強さを増し、変化していく姿を捉えています。
<作品に関しての解説>
『アリ地獄天国』は、一個人の労働争議を通して、現代日本社会が抱える労働問題の縮図を鮮やかに映し出します。月390時間を超える異常な長時間労働、事故弁償金による実質的な賃金搾取、異議申し立てに対する陰湿な報復。これらは「ブラック企業」に共通する特徴であり、本作はその実態を生々しく告発します。同時に、労働者の権利意識の希薄さや、声を上げることへの恐怖が、いかに搾取構造を維持させてしまうかを浮き彫りにしています。
最近の労働環境はホワイト企業や退職代行のような労働者にとって助けになるような言葉や手法が出てきて労働者が保護されるような風潮が当たり前になってきていますが、この映画の時代は、まだブラック企業は当たり前に存在し、残業代未払い、賃金未払い、やる気搾取といった雇用側の都合で労働者が虐げられるようなことは多かった時代です。
本作は「労働映画」として、主人公・西村さんの3年間の変化の道のりを追いかけた作品になります。シュレッダー係としての物理的な移動だけでなく、理不尽に耐えながら精神的に成長し、権利意識に目覚め、連帯の中で自己肯定感を取り戻していく内面の旅路が描かれます。監督のカメラは時に「憤怒を帯び」、個人の尊厳を踏みにじる構造への怒りを隠しませんが、同時に困難な状況でも人間性を失わない西村さんの姿を通して「人間の尊厳を浮上させる」視点を持っています。長期密着は監督と被写体の信頼関係を築きましたが、一方で会社側の取材が困難だったため、構成のバランスを欠くという指摘もあります。
<世の中の評価>
ドキュメンタリー映画『アリ地獄天国』は、「ブラック企業」の壮絶な実態と、それに抗い個人の尊厳を守り抜こうとした一人の労働者の3年間の闘いを、労働組合との連帯と共に克明に記録した、現代日本において極めて重要な作品です。「死ぬな、諦めるな、助けを求めろ」「諦めなければ勝てる」というメッセージは、絶望的な状況下でも連帯し、声を上げ続けることの意義と可能性を力強く示します。『アリ地獄天国』は、働くことの意味、人間の尊厳、そして社会のあり方を私たち一人ひとりに問いかける、必見のドキュメンタリーです。
『アリ地獄天国』は公開後、国内外で大きな反響を呼び、高い評価を獲得しました。日本貧困ジャーナリズム賞2019、山形国際ドキュメンタリー映画祭2019、キネマ旬報ベスト・テン文化映画第8位(2020年)、日本ドキュメンタリー映画アワードグランプリ受賞(米国ピッツバーグ大学主催)など、多数の受賞・上映歴がその質の高さと社会的重要性を物語っています。
観客からは、会社の非道なやり方への驚きや怒り、そして想像を絶する状況下で尊厳をかけて闘い続ける西村さんの姿への深い共感と称賛の声が多く寄せられました。「胸が熱くなった」「勇気をもらった」という感想も少なくなく、強い感情的な揺さぶりを体験した観客が多いことがうかがえます。一部にはテレビ番組と比較した深掘り不足や構成の一方性を指摘する声、主人公の選択に感情移入しにくいという意見も見られました。
特筆すべきは、国境を越えた共感です。海外の視聴者からの「自分の体験を思い出した」といったコメントは、本作が描く労働者の尊厳や抵抗といったテーマが普遍的であることを示しています。主要な映画メディアや、「ガイアの夜明け」といったテレビ番組でも取り上げられました。総じて、「この映画は現代社会にとって必要である」という認識が共有されており、労働問題について考え、行動するきっかけを与える作品として高く評価されています。

<『アリ地獄天国』・企業ドキュメンタリー作品はこんな方におすすめ!>
『アリ地獄天国』は現代を生きる多くの人々にとって観る価値のある作品ですが、特に以下のような方々に強く推奨します。
・日本の労働問題や「ブラック企業」に関心のある方:その深刻な実態を具体的に知ることができます。
・社会派ドキュメンタリーや告発的な作品が好きな方:権力の不条理を鋭く捉えた力強い作品です。
・現在働いている労働者:職場を見つめ直し、権利意識を高めるきっかけになります。声を上げることの重要性を学べます。
・これから社会に出る学生:労働法や労働組合、社会が抱えるリアルな問題を学ぶ生きた教材となります。
・労働組合の関係者や活動家:実際の労働争議の困難さと組合の役割、勝利へのプロセスを学ぶ貴重なケーススタディです。
・経営者や管理職の方:従業員の尊厳を守り、健全な職場を築くことの重要性を再考する機会になります。
本作は単に問題を描くだけでなく、観客に知識、勇気、希望、そして労働組合という具体的な選択肢を提示します。ただし、作中には精神的に負担を感じる可能性のある描写も含まれるため、鑑賞にはご留意ください。
【コラム】おすすめ!必見作品『アリ地獄天国』
アジアンドキュメンタリーズの配信作品の中から、今、特に注目されている人気の話題作をピックアップしてご紹介させていただきます。
ドキュメンタリー作品ページはこちらからご視聴下さい。
『アリ地獄天国』 https://asiandocs.co.jp/contents/1542
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