日本のゴスペルは一大ブームの後、どう根付き、独自の文化になっていくのか。ゴスペルの魂を伝える音楽ドキュメンタリー『GOSPEL』

今回のドキュメンタリー映画紹介は、ゴスペル音楽をテーマにした音楽ドキュメンタリー作品『GOSPEL』です。ゴスペルシンガーやゴスペルクワイアたちが魂を込めて歌い上げるその歌声は、単なる音楽を超えて聞く人に福音を届けます。本作ではゴスペルの魅力とともに、ゴスペルの起源やその深い歴史的背景、ゴスペルとキリスト教との関係性、日本のゴスペルシーンの現状とゴスペルシンガー達の葛藤が描かれています。それでは本作品を紹介させていただきます。
<作品紹介>
ドキュメンタリー作品タイトル:GOSPEL
~クリスチャンではない日本人が賛美する福音音楽。ゴスペルシンガーの本音と葛藤を映す音楽ドキュメンタリー~
制作年/作品時間 | 2014年製作/作品時間56分 |
撮影地 | 日本・アメリカ |
製作国 | 日本 |
監督 | 松永大司 |
ゴスペルにハマる日本人と、日本人の「信仰なきゴスペル」に戸惑う黒人たちの本音に迫ったドキュメンタリー。ブームが起きて30年。日本の音楽シーンに根付いたゴスペル音楽だが、ゴスペルを歌う日本人の9割以上が非キリスト教徒だ。にもかかわらず彼らは、歌の中で神を賛美し祈りを捧げる。米国のゴスペルシンガーは「理解できない」とあきれ顔を見せ、日本人のゴスペル講師は「マス・コーラスという一つの音楽形態に落とし込んで、宗教色を出さない」と割り切る。クリスチャンではない者が、福音を求めるゴスペルを歌う。その矛盾に悩む人、まったく気にしない人、キリスト教に入信する人……さまざまな人間模様とともに、日本人とゴスペルの微妙な関係を追究した。
[ドキュメンタリー作品・予告編]

本作品の見どころをお伝えする前に、ゴスペルの起源や盛んな地域、代表的なゴスペルソング、日本のゴスペル音楽シーンについて、簡単に解説いたします。
<解説!ゴスペルの概要、起源、盛んな地域>
■ゴスペルの起源■
ゴスペル(Gospel)という言葉には「良い知らせ」や「福音」という意味があります。その言葉の通り、ゴスペル音楽は希望や救い、信仰の力を歌い上げる音楽であり、そのルーツは19世紀のアメリカ南部にまで遡ります。当時、奴隷として苦しみながらも神への信仰を捨てなかったアフリカ系アメリカ人たちが、祈りと共に歌ったのがゴスペルの起源です。彼らは聖書の物語に自身の苦難を重ね、希望を持ち続ける手段として歌を用いました。福音音楽を歌うゴスペルシンガーや、主にキリスト教の教会で宗教的な歌を歌う合唱団「ゴスペルクワイア」が誕生し、とジャズ、ソウルミュージック、R&Bなどと融合しながらゴスペル文化が作られていきました。


■ゴスペルが盛んな地域■
ゴスペルはアメリカの南部諸州(特にミシシッピ州、アラバマ州、ジョージア州など)で盛んに歌われており、ここでは今なお伝統的なスタイルのゴスペルクワイアが数多く存在しています。20世紀には都市部にも広がり、シカゴゴスペルやデトロイトスタイルといったサブジャンルも誕生しました。
◇代表的なゴスペルソング紹介◇
ゴスペル音楽の中には、長年にわたり愛され続ける名曲が多数存在します。ほんの一部ですが、ご紹介します。
Amazing Grace(アメイジング・グレイス) | 最も有名な讃美歌の一つで、ゴスペルの定番曲。 |
Oh Happy Day(オー・ハッピー・ディ) | 1967年にエドウィン・ホーキンズ・シンガーズが発表し、世界的ヒットとなった喜びの歌。 |
His Eye Is on the Sparrow | ジャズ歌手マヘリア・ジャクソンが歌い継いだ、信仰の力を象徴する楽曲。 |
Take My Hand, Precious Lord | キング牧師も愛した祈りの歌で、悲しみと希望を歌うゴスペルの代表作。 |
<解説!日本のゴスペル音楽シーン>

■日本におけるゴスペルブームの背景■
日本では1990年代後半からゴスペルブームが起こりました。その背景として、アメリカの音楽文化への憧れとともに、宗教的な制約が少ない形でゴスペル音楽を体験できることが挙げられます。特に映画『天使にラブ・ソングを…(Sister Act)』の影響は大きく、多くの日本人がゴスペルの魅力に触れるきっかけとなりました。
その後、各地にゴスペル教室やワークショップが設けられ、ゴスペルクワイアも急増。宗教的要素を必ずしも強調せず、音楽としての力や仲間との一体感を楽しむ形で発展してきました。
■日本のゴスペルシンガー亀渕友香■
亀渕友香さんは、日本のゴスペル界を牽引した草分け的存在で、「VOJA Voice Art College」を開校し学長を務めたり、自身のクワイアを率い、多くの後進を育てました。2017年10月逝去(享年72歳)。
『GOSPEL』作品にも出演し、日本のゴスペルシーンについての証言を残しています。

<『GOSPEL』ドキュメンタリー作品のみどころ>
『GOSPEL』は、単なる音楽映画ではありません。これは、ゴスペルを通じて人間の尊厳、信仰、そしてつながりを描いた力強いドキュメンタリーです。歴史ある教会やライブハウスで歌い継がれる讃美歌やスピリチュアルソングが、いかにして今のゴスペル音楽へと発展したかを、ゴスペルシンガーや指導者たちの証言を通じて描いています。特に、ゴスペルと黒人文化との深い結びつきや、アメリカ社会におけるゴスペルの意味、その精神性とエネルギーがどのように伝わってきたのかが見どころです。現代の日本におけるゴスペルの受容や活動風景も取材しており、ゴスペルと信仰の深いつながりを考えると、信仰心を持たずクリスチャンではない日本人がゴスペルを歌うことの矛盾や葛藤などが見えてきます。一方で日本では音楽が宗教の枠を超え、人々の心をつなぐ「言葉」や「交流」になっていることを感じさせてくれます。純粋にゴスペルミュージックに惹かれ、信仰心を持たずにゴスペルを歌うことの是非を考えさせられる作品でもあります。

■『GOSPEL』はこんな方におすすめ■
ゴスペルは一つの音楽シーンとして、日本の多くの方にとって興味深く見ていただける作品ではありますが、ゴスペル音楽に興味がある方から、日本におけるゴスペル文化や活動を知りたい方、キリスト教音楽や讃美歌に触れたい方、音楽を通じた信仰や希望の力に感動したい方、R&B、ジャズ、ソウルミュージックが好きな方には、ぜひおすすめしたいドキュメンタリー作品です。
普段は宗教や信仰に縁がない方でも、ゴスペルから伝わってくるエネルギーやメッセージには心を打たれるはずです。『GOSPEL』は、ゴスペル音楽の持つ“魂の響き”を感じさせ、私たちの日常に希望を与えてくれる作品です。

◇その他おすすめドキュメンタリーご紹介
ゴスペルの音楽関連ドキュメンタリー作品では、今回ご紹介した『GOSPEL』以外にも、中国の山岳民族が商業主義と信仰、民族の伝統の間で葛藤するドキュメンタリー映画『ミャオ族の聖歌隊』も公開されています。こちらも是非ご覧ください。
[サイトURL:https://asiandocs.co.jp/contents/272]
【コラム】おすすめ!必見作品『GOSPEL』
アジアンドキュメンタリーズの配信作品の中から、今、特に注目されている人気の話題作をピックアップしてご紹介させていただきます。
ドキュメンタリー作品ページはこちらからご視聴下さい。
『GOSPEL』 https://asiandocs.co.jp/contents/270
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