少数民族ミャオ族のゴスペル・讃美歌が世界に響くドキュメンタリー映画『ミャオ族の聖歌隊』

 


今回のドキュメンタリー映画紹介は、中国南部の山岳地帯、雲南省に暮らす少数民族・ミャオ族の合唱団を追った音楽ドキュメンタリー『ミャオ族の聖歌隊』です。ミャオ族は古来より精霊信仰やアニミズムを受け継ぎつつ、近年ではキリスト教(クリスチャン)の影響も色濃く受けています。その中で生まれた独自の宗教音楽や賛美歌、ゴスペルは、まさに魂を揺さぶる祈りの歌声です。合唱団が注目され、観光地として盛り上がっていく中で、精霊信仰と近代化のはざまで揺れるミャオ族の姿は、文化喪失の問題を考えるきっかけにもなるドキュメンタリー作品です。それでは作品紹介をさせていただきます。
 

<作品紹介>

ドキュメンタリー作品タイトル:ミャオ族の聖歌隊

~中国雲南省の少数民族ミャオ族のゴスペル隊が、商業主義と信仰、民族の伝統の間で彷徨いながら生きる~

 
原題  Singing in the Wilderness
制作年/作品時間  2021年製作/作品時間98分
撮影地  中国
製作国  中国・アメリカ
監督  ドンナン・チェン

受賞歴

映画祭

 ロッテルダム国際映画祭
 テッサロニキ ドキュメンタリー 映画祭
 シドニー映画祭
 Doc Edge
 ロサンゼルス アジア パシフィック映画祭
 ミレニアム ドックス アゲインスト グラビティ映画祭
 モントリオール国際ドキュメンタリー映画祭
 西寧FIRST国際映画祭
 DMZ国際ドキュメンタリー映画祭 
 
中国・雲南省の少数民族・ミャオ族の聖歌隊が、商業主義に翻弄されながら民族のアイデンティティと信仰心を拠り所に生きてゆくさまを追った作品。敬虔なクリスチャンとして神に歌を捧げる一方、役人の指示に従い宗教色を排除した歌で人気を獲得していく。知名度が上がり次第に豊かになっていくとともに、観光資源化された村は一気に押し寄せる開発の波から逃れられなくなる。土地を失い、報酬をめぐって信頼関係が揺らいだ。そんな苦境にあっても、信仰心と歌は決して忘れることがないミャオ族。しかしその陰で、失われてゆく伝統もあった。民族として守るべきものは何なのか。ミャオ族の苦悩が、観る者の心に問いかける。

[ドキュメンタリー作品・予告編]
 

『ミャオ族の聖歌隊』の見どころをお伝えする前に、本作に関してミャオ族に関することやゴスペルに関して、簡単に解説いたします。

<解説:ミャオ族に関して>

■ミャオ族の概要・生活スタイル■

ミャオ族は中国の主要な少数民族の一つで、人口は約900万人以上とも言われています。主に雲南省、貴州省、広西チワン族自治区、湖南省などの山岳地域に点在して暮らしており、ミャオ族の中にはモン族と呼ばれるグループも含まれます。
山岳民族である彼らは、農耕を中心とした生活を営みながら、伝統的な織物技術や銀細工、色鮮やかな民族衣装で知られています。とくに女性の衣装は地域によって大きく異なり、刺繍や装飾品にその地の文化や信仰が反映されています。また、ミャオ族は言語も多様で、方言によって大きな違いがありますが、共通しているのは自然や祖先、精霊への信仰が深く根付いている点です。



<ミニ解説:アニミズムとは>

アニミズムとは、自然界のあらゆる存在に霊的な力が宿ると考える宗教観・精神文化です。山、川、木、動物、さらには風や火といった自然現象にも霊魂が存在すると信じ、人々はそれらと調和を保ちながら生きてきました。
この考え方は、先祖崇拝やシャーマニズムとも親和性が高く、多くの先住民族や少数民族の文化において重要な位置を占めています。アニミズムは、現代社会における環境問題や精神的価値の見直しとも重なるため、いま再び注目されています。
 

■ミャオ族の音楽と伝統文化■

ミャオ族の音楽は、祭礼や季節の行事、恋愛や結婚など、人生の様々な節目で重要な役割を果たしています。中でも有名なのが「歌垣(うたがき)」と呼ばれる男女の掛け合い歌で、恋愛の始まりを象徴する伝統文化です。
さらに、「蘆笙(ろしょう)」と呼ばれる竹製の管楽器の演奏は、ミャオ族の音楽の象徴的存在です。蘆笙は祝祭や葬儀など様々な場面で用いられ、その旋律には自然と人間の調和を願う気持ちが込められています。
ミャオ族の聖歌隊が歌う賛美歌やゴスペルは、これら伝統音楽とキリスト教の影響が融合した新しい表現として注目されています。

 

<ミニ解説:ゴスペルとは>

ゴスペル(Gospel)という言葉には「良い知らせ」や「福音」という意味があります。ゴスペル音楽はキリスト教徒が、希望や救い、信仰の力を歌い上げる音楽です。その起源は19世紀のアメリカ南部で、奴隷として苦しみながらも神への信仰を捨てなかったアフリカ系アメリカ人たちが、祈りと共に歌ったのが始まりとされています。彼らは聖書の物語に自身の苦難を重ね、希望を持ち続ける手段として歌を用いました。福音音楽を歌うゴスペルシンガーや、主にキリスト教の教会で宗教的な歌を歌う合唱団「ゴスペルクワイア」が誕生し、とジャズ、ソウルミュージック、R&Bなどと融合しながらゴスペル文化が作られていきました。
 

<『ミャオ族の聖歌隊』ドキュメンタリー作品のみどころ>

『ミャオ族の聖歌隊』では、音楽の視点で、ミャオ族が歩んできた歴史や文化的アイデンティティを丁寧に描いています。中国では、少数民族に対する政策や宗教への統制、中国国内での宗教弾圧の問題も見逃せません。少数民族として長年にわたり中国の主流文化から排除されやすいわけですが、音楽は彼らの精神的な支柱であり、抵抗の象徴でもあります。
ミャオ族の伝統文化とゴスペルやキリスト教音楽が融合していくユニークな音楽文化は興味深く、ミャオ族の聖歌隊が奏でる音楽、その響きは、まるで祈りそのもの。言葉の壁を越えて、聴く者の心にまっすぐ届く力があります。特に印象的なのは、聖歌隊による合唱のシーン。重厚で繊細なハーモニーは、ミャオ族独特の多声音楽の魅力を余すところなく伝えてくれます。また、村で歌う場面からは、音楽が生活の一部であり、共同体の結束を強める役割を果たしていることが伺えます。
聖歌隊が敬虔なクリスチャンとして神に歌を捧げる一方で、聖歌隊が歌うことで注目され、観光政策や商業主義に次第に巻き込まれていき、役人の指示に従いながら宗教色を排除した歌で人気を獲得していきます。知名度が高まることで、観光地として人が押し寄せ、村は豊かになりますが、開発の波によって、様々なトラブルが舞い込んできたり、失われていく村の面影と伝統喪失との課題に直面していきます。
 

■こんな方におすすめ■

『ミャオ族の聖歌隊』は、以下のような方に特におすすめのドキュメンタリーです。

中国やアジアの少数民族文化に関心がある方、民族音楽や宗教音楽や賛美歌・ゴスペルに興味をお持ちの方、精霊信仰やアニミズム・シャーマニズムなどの精神文化を学びたい方、政治ドキュメンタリーや社会派の作品を探している方、美しい映像と音楽で癒されたい方

 

ミャオ族の音楽と信仰、そしてその奥にある生活と歴史を知ることで、多様な世界を理解するきっかけになると思います。また、山岳民族ならではの雄大な自然風景や、色鮮やかな民族衣装、村の暮らしなどが捉えられており、まるでその地を訪れたような臨場感が味わえます。文化喪失という切実なテーマに触れながらも、どこか温かさを感じられ、ミャオ族の聖歌隊の活躍を通じて世界を見つめられる作品です。ぜひご視聴ください。


◇その他おすすめドキュメンタリーご紹介

アジアンドキュメンタリーズでは、宗教・民族音楽の関連作品では、今回ご紹介した『ミャオ族の聖歌隊』以外にも、日本の音楽シーンのゴスペルに焦点を充てたドキュメンタリー映画『GOSPEL』も公開されています。是非ご覧になって下さい。

【コラム】おすすめ!必見作品『ミャオ族の聖歌隊』

アジアンドキュメンタリーズの配信作品の中から、今、特に注目されている人気の話題作をピックアップしてご紹介させていただきます。
 
ドキュメンタリー作品ページはこちらからご視聴下さい。

『ミャオ族の聖歌隊』 https://asiandocs.co.jp/contents/272


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