特集「鉄道のある生活」(全5本)

◆人類の発展とともに進歩して来た鉄道
「人類の大発明」と言われる鉄道が英国で誕生したのは19世紀初頭のこと。貨物や乗客を運ぶ手段として普及し、欧州各国や米国でも建設・開業が進みました。アジアでは1853年に英領インドで初の鉄道が開業。その後も各国で19世紀後半から20世紀前半の植民地時代に、宗主国主導で鉄路が敷かれました。日本では1872年(明治5年)の新橋・横浜間の開業によって鉄道社会が幕を開けました。自動車輸送が普及した20世紀後半に鉄道は一時衰退しましたが、現在はどこの国においても、物流改善の切り札として鉄道への関心が再び高まっています。近年では中国が欧州やラオスとの間に鉄道を開通させています。アジアの国々の鉄道の総延長は約25万3,000キロで、日本の鉄道網約2万8,000キロを加えると世界全体(約110万キロ)の4分の1を占めています。
 
◆暮らしと産業を支える国民の共有財産
鉄道の爆発的な普及を牽引したのが蒸気機関車です。馬車よりも大量に物が運べ、運河よりもはるかに少ない費用と時間で建設ができたことで、産業革命は繊維工業の第一局面から製鉄や石炭などの工業化という第二局面に進化を遂げたのです。以後も鉄道は物資や製品の輸送で産業発展を支え、また旅客輸送も担うことで、通勤手段としてはもちろん、観光やビジネスの移動手段としての利用も広まりました。安価で移動できる鉄道は、庶民の足としても活躍。停車場には人が集い、市が開かれ、やがては町を形成。物流も発達し、都市と都市、都市と郊外の人の流れを加速させてきました。列車内や駅という鉄道空間で繰り広げられる暮らしの営みから、その国の国民性が垣間見えます。
 
◆スピード重視の時代がもたらしたもの
経済成長と歩調を合わせるように、鉄道は速さと定時性も求められてきました。乗客の大量輸送が可能な鉄道は、都市圏での通勤・通学における必須の交通手段。鉄道会社にとって輸送時間の短縮はサービス向上の一環であり、他社と競合する路線においては切り札ともいえる営業の武器です。鉄道に限らず、収益最優先で事業を行う企業は少なくありませんし、収益を生むためのサービス向上は歓迎されるべきことです。しかし収益性を追求するあまり、安全面を軽視することは許されません。乗客の安全確保は交通機関としての責務。その大前提を私たちは忘れてはならないのです。

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