特集「音楽とくらし」(全3本)

◆言葉とともに民族の文化を作ってきた音楽
地球上に、言葉を持たない民族はいません。同様に、歌をまったく歌わない民族も存在しません。音楽は、すべての人類に共通する創作行動なのです。とはいえ、歌や楽曲がそれぞれの民族によって異なります。民族固有の言語が生み出されたように、音楽も独自の文化として奏でられてきました。民族それぞれの音楽が、独自の意味や価値、美質を持っています。世界に数多ある民族の数と同じく、音楽の種類も多様であり、またそれぞれが奥深さも持っています。一つの基準をもって価値判断をすることは不可能であり、また不遜であるといえます。異文化を知る上で、言葉以上に感覚的、直感的で分かりやすいものが音楽なのです。
 
◆多様性の時代にこそ高まる、伝統音楽の価値
世界のボーダーレス化が進み、西洋音楽が普及した現在、民族固有の伝統音楽の後継者育成が重要なテーマになりつつあります。西洋音楽が主流で、他の地域が亜流といった旧来型の思考では、文化の継承はできません。いずれの音楽も人類にとって貴重な遺産であると考えることで、次世代に継承できるでしょう。音楽は楽器の音色や楽曲旋律を楽しむためだけでなく、民族や地域の文化を包括した娯楽でもあります。多様性が尊重される今、個性豊かな伝統音楽は、民族史を紐解く貴重な資料としてもその価値を発揮しています。
 
◆人の心に響き、癒しの作用も内在
伝統音楽は、文化はもちろん宗教にも大きな影響を受け、一方では影響を与えてきました。イスラム教におけるコーランの詠唱や、キリスト教の教会音楽、讃美歌、日本の神事においても雅楽が使われるなど、音楽と宗教の間にも、深い民族的関係があります。見方を変えると、宗教家は音楽を有効に使うことで、信者を導きやすくもなるということ。医療が未発達な地域では音楽による治療が行われることもあり、音楽に内在するヒーリング効果を求める行為が、ある種の普遍性を持っていることを窺い知ることができます。

お気に入り登録数:0

カテゴリ