特集「画家の街」(全4本)

◆経済成長とともに発展した「絵画の村」
2016年制作のドキュメンタリー映画『世界で一番ゴッホを描いた男』の舞台となった中国・大芬(ダーフェン)。深圳近郊の「絵画の村」と呼ばれる街に、世界中の美術バイヤーが集います。その目的は、西洋名画の複製画。ホテルのロビーや部屋などに飾られる複製画の約6割が、ここで“生産”されたものなのです。1989年に香港の画商が工房を開いて以降、中国の経済成長と足並みをそろえるように複製画の需要が拡大。今や大芬の街では、あらゆる路地で画工が絵筆を握り、絵の具のにおいで満ちています。ここにおよそ8000人の画工が暮らし、年間700億円もの売り上げを生み出しているのです。
 
◆複製画の輸出依存からオリジナルの国内販売へ
2008年のリーマンショックは、輸出に頼っていた大芬の画工たちにとって大打撃でした。取引量が30分の1まで縮小し、売り上げに占める海外比率は8割から2割に激減。政府や画商は、海外向けに複製画を大量生産するだけでなく、オリジナル作品の制作と複製画の生産という2つの軸で大芬の産業を発展させるよう方針転換しました。2020年には新型コロナウイルスのパンデミックにより輸出が途絶えましたが、世界2位の規模を誇る中国のアート市場をターゲットにしたことで、大芬の絵師たちは活躍の場が広がりました。
 
◆経済的利益と芸術活動の間で揺れる絵師たち
中央政府は、リーマンショック以後、海外市場拡大のための展示会やオークションを開催するなど大芬の産業支援に乗り出しました。複製画の輸出が盛んだった頃は、オリジナル絵画の推奨に積極的ではありませんでしたが、複製画を「美術品ではない」と定め、オリジナル作品の振興に努めています。しかし現実は、多くの絵師たちが今も経済的利益と芸術活動の間で彷徨い、苦悩しています。複製であれオリジナルであれ、絵画には絵師たちの誇りが込められています。その誇りの原点はどこにあるのか。『世界で一番ゴッホを描いた男』の視聴後に観ることで深みが増す、ショートドキュメンタリーを用意しました。

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