特集「いま、シリアをみつめる」(全8本)
◆半世紀以上に及ぶアサド家の独裁に終止符
2024年12月、シリアの首都ダマスカスを反政府勢力が制圧。父の代から半世紀以上にわたって政権を維持してきたアサド大統領は、ロシアに亡命しました。発端は2011年に“アラブの春”の民主化運動を鎮圧して以降、監視や言論統制を強め、抗議デモには武力で対応したこと。これが内戦へと発展しました。高い失業率やインフレに加え、宗教対立もあり、さらに外部勢力も介入したことで内戦が激化。結束する反政府勢力とは逆に、政権を支援していたロシアやイランの影響力が低下しました。政府軍内は内部崩壊し、独裁体制は終焉。アサド政権が崩壊したのです。混迷を深めるシリア情勢のこれまでを振り返り、これからを考える作品をお届けします。
◆逮捕、拷問、処刑—弾圧による統治で多くの犠牲
強権的な手法で民主化を求める市民や反政府勢力への弾圧を行ってきたアサド政権。抗議者は逮捕され、収容所へ送られました。収容所は食事や医療の提供がほとんどなく、拷問や処刑が日常的に行われ、多くの市民が死亡あるいは行方不明となりましたが、家族に安否は伝えられませんでした。メディアの活動を制限し、政権に有利な情報だけを拡散するように操作。反政府的な意見のジャーナリストも逮捕され、厳しい処罰を受けました。デモに対しては、軍や治安部隊が武力で鎮圧。ここでも多くの市民が命を落としました。今後、これらの犯罪行為がどのように裁かれるのか、国際社会にとって重要な課題となっています。
◆未来の鍵を握る、3000万人のクルド人
アサド政権が崩壊した後のシリアでは、さまざまな勢力がうごめいています。ロシア、イランの影響力が低下したことで、イスラエル軍がシリア領内で活動を始めたというニュースもありました。また、反体制派の他にも複数の反政府武装勢力やIS、クルド人部隊の「人民防衛隊」などが支配地域の拡大を狙っています。中でもクルド人は、シリア、トルコ、イラク、イランの一帯に約3000万人が暮らし、いずれの国でも少数民族として扱われています。アサド政権の弱体化とともにクルド人の分離独立を掲げる武装組織PKK(クルド労働者党)が勢いを増し、隣国トルコとの対立が深まり、新たな火種の懸念が生まれています。
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