
特集「しあわせの尺度」(全5本)
◆さまざまな指標と主観で数値化される「幸福度」
「幸せ」は目に見えない感情であるにもかかわらず、世界中で数値化され、比較される対象になっています。一般的に「幸福度」とは、主観的な「満足感」と客観的な「指標」によって形成されるものと定義されています。主観的満足感とは、自分自身が「幸せだ」と感じる度合い。生活満足度や自己肯定感などが含まれます。客観的指標は、所得、健康、社会的支援、自由度、寛容さなど。それに加えて日本では「他者との調和」や「推し活」など、文化的な要素が幸福感に強く影響します。対して北欧諸国では、自由度の高さ、社会の信頼関係、福祉制度の充実が幸福度を高めています。幸せの尺度は国や文化によって異なり、「絶対」や「正解」は存在しないものなのです。
◆社会構造による幸福と、文化がもたらす幸福
「世界幸福度ランキング」によると、日本の幸福度は147カ国中55位。経済的に安定し、治安も良く、医療や教育も整っている日本が、なぜ上位にならないのでしょうか。幸福度ランキングで指標とされているのは、「1人あたりGDP」「健康寿命」「社会的支援」など、合理性や個人主義を重視する西洋的価値観に基づくもの。個人の感情を抑え、自然や集団との調和を重んじる日本的な幸福感は数値化が難しく、ランキングに反映されにくいと言われています。また日本の順位の低さは、幸福を語ることを「自慢」と受け取られることへの慎重さや、他者への配慮からくる謙遜の文化も影響しています。日本と海外のどちらが優れているかではなく、「幸福の形が違う」という視点が重要です。
◆経済的な安定だけとは対極にある「幸せに気づく力」
「お金があれば幸せになれる」と信じている人は少なくありません。確かに経済的安定は幸福の土台になりますが、それだけでは持続的な幸福は得られません。内閣府の調査によると、年収1000万円を超えると満足度の上昇幅が小さくなる傾向にあります。消費による一時的な満足は、長期的な幸福とは異なるのです。幸福を感じる上で重要なのが「幸せに気づく力」です。この力は、文化的に培われた“感受性のスキル”。私たち日本人は、わび・さび、余白の美、儀式的な日常などを通じて、一瞬の美しさや静かな喜びに心を留める力を育んできました。「幸せになる」よりも「幸せに気づく」ことに長けているといえます。ランキングに映らない幸せは、私たちのすぐそばにあるのです。
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