特集「イラクの闘い」(全8本)
◆フセイン政権崩壊後も終わらない混乱
2003年に米国主導で始まったイラク侵攻は「大量破壊兵器を保有している」という虚偽の口実の下に実行され、サダム・フセイン政権を崩壊させました。占領下では、旧治安組織の解体と兵力不足から治安が悪化し、略奪が多発。これにより、スンナ派とシーア派の宗派間対立が激化し、2006年から2008年頃にかけて紛争状態に陥りました。2011年の米軍撤退後も混乱は続き、イラク戦争の民間人の犠牲者は約50万人に上ると推計されました。現在のイラクは2003年以降で最も安定しているといわれますが、民族・宗派によって役職を割り当てる選挙制度が分裂を深め、汚職や非効率な政治を招いています。さらに、若者の失業率が高いこと(2022年時点で34.6%)や、100年で最悪とされる水不足も深刻な問題です。
◆ISIL残党や親イラン勢力が暗躍し、緊張は続く
駐留米軍撤退後の混乱と、2013年以降のシーア派政権への抗議鎮圧による宗派対立の激化を好機として、イスラム国(ISIL)が2014年にイラクとシリアで勢力を拡大しました。ISILはモスルを制圧するなど広大な地域を掌握し、2015年に最盛期を迎えましたが、米主導の有志連合やイラク治安部隊、クルドのペシュメルガの攻勢により支配地は急速に縮小。2017年12月には、イラク全土からのISIL一掃が宣言されました。しかし、現在も特にイラク北部・西部において、ISIL分子の残党による治安部隊への攻撃や一般市民を標的としたテロ、誘拐事案が確認されており、テロ活動は継続しています。また、イランと関係の深いイラク民兵組織による、米国関連施設へのロケット弾や無人機を使った攻撃が頻発し、緊張状態が続いています。
◆議会選挙で選ばれた政府でさえも汚職に染まる
米国侵攻後のイラクで、2006年5月に民主的な議会選挙を経て正式政府が発足しました。2022年10月に就任したムハンマド・スダニ首相は、公共サービス向上への効果的な取り組みを行っています。北部では、クルディスタン地域政府(KRG)が独自の治安部隊「ペシュメルガ」を持ち、インフラ再建と経済成長を実現してきました。しかし課題は山積。2021年には1年間で約25億米ドルの公的資金流出といった汚職事件が起きています。経済は、政府予算の85%を石油輸出に依存しており、原油価格に左右される構造が克服されていません。
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