特集「カシミールの危機」(全2本)
◆1947年の「印パ分離」から続く長期紛争
カシミール紛争の起源は1947年にイギリス領インド帝国がインドとパキスタンの2国に分かれて独立した「印パ分離」にあります。冷戦期には、英国がソ連の核活動監視のためカシミール地方を支配下に置く必要があり、ソ連はウラン確保のため中国にアクサイチン地区の掌握を促すなど、大国の戦略的思惑が深く関与していたのです。1960年のインダス水協定(IWT)締結時には、カシミールの領土紛争は棚上げされました。
◆混乱をさらに深める宗教的対立
カシミール紛争は、宗教問題も絡んだ両国のアイデンティティに関わる重要課題となっています。インドではヒンドゥー・ナショナリスト政党が指導力を持ち、報道機関と結託し、人口の14%を占めるイスラム教徒を“反国粋主義者”として繰り返し標的にしてきました。カシミール地方では、パキスタン軍の支援が疑われるイスラム過激派組織により、ヒンドゥー教徒の観光客を標的にしたテロ事件も発生しています。
◆水資源を求めて中国も介入
カシミール地方をめぐる紛争において、水資源は戦略上の権益の大きな柱です。パキスタンは水資源の約9割をインダス川水系に依存しており、上流国であるインドに経済の生命線を握られている状態。IWTにより西側河川の約8割がパキスタンに割り当てられましたが、近年は中国がパキスタン支配下のカシミールに巨大ダムを建設し、インダス川の流れを物理的にコントロールしようとしています。これは新疆ウイグル自治区の半導体産業への水力・貯水利用を目的としたものといわれています。
◆新たなテロのリスクを生む2国間の緊張
インドはより強力な立場から、カシミールでのテロ事件への報復として、2025年4月にIWTの履行を停止し、パキスタンへの強い警告・制裁の姿勢を示しました。インドは取水量増加に向けたインフラ整備を加速中です。一方、深刻な水不足に直面するパキスタンは、インドが取水量を増やせば、農業用水不足や電力不足、治安悪化の悪循環に陥り、経済・社会が不安定化してしまいます。パキスタンはインドの履行停止を「戦争行為」と警告。不足は、過激派による「水のための聖戦」という、新たな越境テロのリスクを高める可能性もあるのです。
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