特集「モンゴルで生きる」(全6本)

◆気候変動と隣り合わせの、サステナブルな「伝統知」
モンゴルの首都ウランバートルは、冬季の気温がマイナス30度から40度を記録し、「世界で最も寒い首都」と称されます。近年、深刻な脅威となっているのが「ゾド(寒雪害)」です。これは干ばつと冬の猛烈な嵐が重なる気象災害で、家畜が放牧地で草を食べられずに大量死し、遊牧民の生計を根底から破壊します。かつて10年に1度程度だったゾドは、気候変動により2019年以降は毎年発生するようになりました。現在、草原の約90%が砂漠化の影響を受けています。この過酷な地で、遊牧民は数千年にわたり草原を破壊せず、最小限のエネルギー消費で生き抜く「伝統知」を培ってきました。自然に身を委ね、等身大の衣食住を手作りでまかなう彼らの暮らしは、現代のサステナブルな社会のあり方に重要なヒントを与えてくれるでしょう。
 
◆資源依存のジレンマと都市化の歪みに挑む若者たち
モンゴル経済は銅や石炭などの鉱物資源にGDPの約25%、輸出の約8割を依存しており、国際価格の変動に左右されやすい脆弱な構造です。また、中国とロシアに挟まれた内陸国という地政学的制約から、物流やエネルギーの多くを両国に頼らざるを得ません。気候変動で生計を失った元遊牧民が不法な金採掘者となり、水銀による健康被害や落盤の危険を冒してわずかな金を掘るという過酷な現実もあります。また、人口の約半数が集中するウランバートルでは、慢性的な渋滞や、冬場の石炭燃焼による深刻な大気汚染が市民の健康を脅かしています。こうした課題に対し、デジタルネイティブであるZ世代が、報道の自由やイノベーションを推進する新しいメディアを立ち上げ、社会を変革しようとする強いエネルギーを見せています。
 
◆失われてゆく遊牧文化と、流入する西洋文化の狭間で
市場経済の浸食や若者の都市流入により、季節ごとに移動する伝統的な遊牧生活は「定住型」へと姿を変えつつあります。定住化は利便性をもたらす一方で、コミュニティの絆を弱め、自然と共生する独自の文化を消滅の危機に晒しています。しかし一方で、「詩」を重んじる深い文化的素養を現代の表現へと昇華させるムーブメントも起きています。ウランバートルでは、伝統音楽のリズムや歴史的な詩の精神をヒップホップと融合させ、社会への警告や自国のルーツへの誇りを表現する若者たちが台頭しています。単に西洋文化を模倣するのではなく、自国のルーツを掘り起こし、新たなアイデンティティを築こうとする彼らの姿は、変化の激しい現代アジアにおける「文化的なレジリエンス(回復力)」の強さを象徴しています。

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