特集「自由の代償」(全5本)
◆習政権下で急増する亡命者と命の越境ルート
習近平政権の発足以来、過酷な監視社会や宗教弾圧、経済的不透明感から逃れるため中国を脱出する人々の数が激増しています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のデータによれば、2012年には約1万2000人だった亡命希望者が、2024年には推計17万6000人に達し、累計では100万人を突破。その多くが、中南米のジャングルを徒歩で縦断する「走線(ゾウシエン)」と呼ばれる命懸けのルートを選んでいます。富裕層でさえ、出生地主義を利用して我が子に市民権を与えようと「バースツーリズム」に走るのは、自国では得られない「安心への渇望」があるからです。信仰や言論の自由という基本的な権利を求め、祖国を捨てるという必死の選択が、現在の中国で常態化しています。
◆「自由の国」が、権威主義国家による弾圧の最前線
しかし、国境を越えても安息の地があるとは限りません。中国政府は「国境を越えた抑圧(TNR)」と呼ばれる手法を用い、亡命者や留学生を執拗に追い続けています。国外で活動する異議申し立て者を標的に、物理的な直接妨害からオンラインでの攪乱、さらには本国の親族への心理的圧力まで、多角的な手段を講じてその活動を封じ込めようとしています。自由な地へ逃れたはずの人々を再び監視と恐怖の網にかけ、その言論を沈黙させることが目的です。アムネスティの調査では、留学生の多くがキャンパス内でも監視の目に怯え、自己検閲を強いられている実態が浮き彫りになりました。自由の国であるはずの場所が、今や権威主義国家による弾圧の最前線と化しているのです。
◆不屈の民主化運動に、強制送還という新たな影
こうした過酷な状況下でも、彼らはアートや草の根の活動を通じて、民主主義の灯を絶やさないよう戦い続けています。中国では不可能な政治運動を、自由な空の下で展開することに、彼らは何物にも代えがたい価値を見出しています。しかし、最大の受け入れ先である米国でも、移民政策の厳格化により「強制送還され、再び暗黒に引き戻されるのではないか」という新たな恐怖が彼らを襲っています。今や単なる一国の移民問題ではなく、国境を越えて届く抑圧の手に、民主主義諸国がどう立ち向かい、自由を希求する個人をどう保護するのかという、国際社会の理念そのものが問われ始めました。彼らの「生きるための闘争」は、今この瞬間も続いています。
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