特集「しあわせを探しに」(全5本)

◆数値化される幸福と、国境を越える生存戦略
国家が掲げる指標や平均値は、個人の豊かな幸せを保証するでしょうか。国民総幸福量(GNH)で知られるブータンでは、若年層失業率は28.6%に達し、2022年には人口の1.5%が豪州へ移住しました。1985年の「一国一民族主義」により10万人以上のネパール系住民から市民権が剥奪された歴史もあります。映画『ブータン しあわせ調査官』では、自身も市民権を奪われた青年が国民の幸福度を数値化して回る構造的矛盾を描きます。一方、『遠い愛を求めて タイの花嫁たち』は、過酷な貧困から逃れ家族を支えるため、タイからデンマークの過疎の村へ国際結婚移住を選択する女性たちを追います。国家の制度や統計からこぼれ落ちる陰で、自らの足で逞しく生き抜く「個人の生のリアリティ」を照らし出します。
 
◆デジタル知識社会と「身体知」が支えるインフラ
「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「効率化」の追求は、本当に人間を幸福にしているのでしょうか。『ハッピー・ワーカーの罠』では、望んだ職に就きながらも果てしない会議や書類作成に追われ、知的労働者の約7割が「燃え尽き症候群(バーンアウト)」を経験する過酷な現実を描いています。対照的に『幸福の速度』が提示するのは、尾瀬の山小屋へ40〜100kgの荷物を背負い、木道を歩く「歩荷(ぼっか)」の生き方です。ヘリの入らない山岳インフラで年間数百トンもの物資を届ける人力運搬は、排気ガスも騒音も出さない持続可能な「身体知」の技術です。出来高制の不安を抱えつつも自然とともに歩む姿は、数字上の成果に追われ心が乾く現代人に、地に足の着いた時間と身体的な手応えの意味を問いかけています。
 
◆超高齢社会・認知症時代の幸福論
グローバル化が加速し続ける時代において、「生産性」や「社会的成功」は最大の関心事かもしれません。しかし、人間は生産性を失ったとき、どう幸せに生きられるのでしょうか。『ヒューマン・フォーエバー』は、自身も介護施設に住み込む青年が、世界各国の高齢者ケア現場を訪ねる旅に出ます。WHOによれば世界の認知症患者数は2021年に5700万人に達し、2050年には1億3900万人に急増すると予測されます。経済損失は年間1.3兆ドルに上り、患者の6割以上が低・中所得国に集中する中、映画はモルドバの精神病棟や南アフリカの家族観を通じて、記憶や効率を超えた「人としての尊厳」を描きます。未来の当事者となる私たちは、人生の終盤まで続く豊かな生き方をイメージできるでしょうか。

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