特集「祈りの大地 ラダック」(全3本)
◆気候変動と氷河の枯渇 ヒマラヤから迫る水危機
世界の「第3の極」と呼ばれるヒマラヤ山脈では、地球温暖化によって急速な氷河の融解が進んでいます。パリ協定の目標を達成した場合でも、2100年までにヒマラヤの氷の3分の1以上が失われ、対策を怠れば3分の2が消滅すると予測されています。この氷河は山岳地帯に暮らす人々だけでなく、インダス川やガンジス川などを通じて下流の16億人以上の水資源や農業を支える生命線です。すでに近年の急速な気温上昇により氷河湖の決壊洪水が発生し、現地の村や学校が流失する甚大な被害も報告されています。地球規模の気候変動が、私たちから遠い地に住む人々の暮らしを脅かしているという現実に目を向ける必要があります。
◆資本主義と観光化の波が変えた地域のコミュニティ
「天空の秘境」と呼ばれたラダックは、道路網の整備や観光開発の波によって劇的な社会変化を迎えています。1974年の観光解禁以降、観光客が増え続け2025年は33万人を突破。2026年は9月時点で46万人と激増しています。現金経済や個人主義が急速に浸透。かつて過酷な自然を生き抜くために不可欠だった助け合いやチベット仏教の価値観は、効率性や経済効果を優先する波に押されつつあります。農業の機械化や政府主導の学校教育の普及により、農作業の歌を通じて代々口伝されてきた地域の知恵や伝統文化の継承が危ぶまれる事態も起きています。開発による「便利さ」の享受と引き換えに、何が失われているのか。グローバル化によって、ローカルな社会構造や価値観が変わりつつあります。
◆40年間の時間軸でみる「学びと文化の再創造」
1977年に撮影された記録映画『ラマ教の高地にて インド・ラダックの旅』には、ラマ教の信仰と農耕・牧畜が調和したラダックの原風景が残されています。かつて人々は農作業の歌などを通じて、生活の中で自然と地域の歴史や作物の育て方を学んでいました。しかし、急速な近代化や標準化された学校教育の普及に伴い、こうした独自の口伝文化は途絶える危機に瀕しています。現代のラダックでは、過去をただ懐かしむだけでなく、学校外の学びの場をつくり、伝統の知恵に新たな技術や事業を掛け合わせて自らの手で「文化を再創造」する挑戦が始まっています。
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