特集「書の世界」(全2本)

◆文字が生まれ、知恵が蓄積され、共有される
人類史上で初めて「文字」の起源だと考えられているのは、紀元前3200年頃の西アジアのシュメール人の都市ウルクで使い始められた絵文字だと言われています。そして、紀元前3000年頃にメソポタミア文明のくさび形文字、エジプトのヒエログリフ(象形文字)などの文字体系が発展しました。人類の軌跡が「文字」で記録されることによって、後世に伝える「歴史」となり、時を超えて知恵が蓄積され、共有されるようになりました。それぞれの文字の起源はバラバラです。文字の発明は文明の発達とも関係しており、地域差があるからです。なかでも、最も特異な文字といわれている「漢字」は、紀元前13世紀頃の中国の亀の甲羅に刻まれた「甲骨文字」から発明されたと言われていますが、その起源はいまだにはっきりしていません。しかし、漢字の形は決して偶然できたものではなく、古代社会と結びつき、現実の社会を写しているものとされています。
 
◆書の根底に流れる深い心の世界
日本では、「形には必ず意味がある」という考え方が受け継がれています。それは漢字を母国語とした文化であることと無関係ではありません。西洋諸国では書くことの精神的な側面は失われてしまいました。しかし中国や日本では、書は最良の瞑想法とも考えられています。絵はありのままを写し、書は精神を写すというのです。書はただの美しい文字ではありません。詩や音楽、あるいは舞踏など、芸術表現と通じるものがあります。書は書き手の心の動きを雄弁に語るものであり、思考だけでなく感情までもが形になって現れます。書の根底には、深い心の世界が流れているのです。アラビア文字もまた、視覚よりも魂に響くものだという人もいます。文字が表わす意味と価値の追求です。文字をモチーフにした現代美術も様々なスタイルで生まれるようになりました。文字にまつわる日常では、文字の「形」が関わってきます。書体(フォント)のデザインによって、無意識のレベルで見る人の印象を大きく左右しているのです。だから書体デザイナーは、伝えるための意図や目的に応じて書体を創意工夫し、より的確に伝えることを目指しているのです。ひとつの文字の中に、まるで小宇宙があるかのような多様な価値観が長い時間をかけて形作られているのです。今回の特集では、「書の世界」にまつわる2作品をお届けします。世界各地で多様な文明が生まれ、その頃から脈々と受け継がれてきた様々な文字が、いかに人間の営みのなかに根差してきたのかを知ることができるのです。

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