特集「亡命夫婦の軌跡」(全2本)
◆恐怖を乗り越えた報道の自由
2012年、チベットの人権活動家 ドゥンドゥップ・ワンチェン氏は、米ニューヨークのジャーナリスト保護委員会から「国際報道自由賞」を贈られました。「報道の自由を守る勇気と姿勢が人々を励ました」ことが受賞の理由です。「暴力や脅迫、監禁など大きな代償を払っても真実を追い続ける姿勢は、我々すべての人々にとって大きな励ましとなった」と委員会は発表しています。ワンチェン氏は北京五輪についてチベット人100人以上にインタビューし、オリンピックは「平和」と「自由」の祭典というのに我々チベット人には平和も自由もない、だから開催には反対する、といったチベット人の真情をドキュメンタリー映画「ジグデル(恐怖を乗り越えて)」としてまとめ、2008年に発表したのです。これを問題視した中国当局は、ワンチェン氏を拘束、翌年、“国家分裂扇動罪”で懲役6年の刑に処します。
◆拘束された夫の解放を世界に訴える妻
何も知らされておらず、安全のため先に4人の子どもたちと共にインドへ亡命していたワンチェン氏の妻のラモ・ツォ氏はダラムサラでパンを焼きながら、夫の身を案じ、世界中に夫の解放を訴える活動を始めます。ダラムサラからスイスへ渡り、そしてアメリカへ。 ラモ・ツォ氏は、夫との再会を信じながら、子どもたちとともに自ら生きる道を切り拓いていきました。映画「ジグデル(恐怖を乗り越えて)」は日本語にも翻訳され、世界30カ国で上映されます。そして、ラモ・ツォ氏の活動は、在外チベット人の大きな反響を呼び、ワンチェン氏の釈放を求める声が世界中で高まりました。 ワンチェン氏が釈放されたのは、刑期を終えた2014年6月でした。しかしその後も公安による厳しい監視によって、家族の再会はなかなか果たせませんでした。夫婦と子どもたちが再会を果たしたのは、2017年12月25日。ワンチェン氏は、「久々に、このような安全と自由を感じることができました。私は、私の妻と子供を再び抱きしめることができるようにしてくださった皆様に感謝したいと思います。しかし、私は祖国チベットを去ったことの痛みも感じている」と話しています。チベット本土では、こうした家族の絆を断たれたままの人々が、今も無数にいるという現実があるのです。
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