特集「遊牧民の暮らし」(全2本)

◆誰のものでもない太陽と、水と、土地と
遊牧民は、土地に定着せず、家畜を連れて放浪する民です。その歴史は長く、遊牧民は騎馬民族として広大なユーラシア大陸を支配した時代もありました。また、遊牧の営みの中で培われてきた豊かな知恵や価値観、思想は、農耕文化で培われた日本人の価値観との相違点を知ることで、私たちが学ぶべき点もあり、日本の姿を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。遊牧民のくらしは、誰のものでもない太陽と、水と、土地によって支えられてきました。大自然の脅威と向き合いながら恵みの深さを知り、自然への感謝と畏れをもって、自らも自然の一部として生活してきたのです。それゆえ、災害を逃れ、安全で豊かな土地を求めて、自由に移住しながら生活する文化を何千年も受け継ぐことができたのです。
 
◆草原に暮らす遊牧民のくらしに危機
しかし、今、遊牧民のくらしに大きな変化が訪れています。モンゴルでは、1990 年からはじまった資本主義経済への急激な移行が、草原に暮らす遊牧民のくらしに危機をもたらしました。そして地球環境の劇的な変動もまた、彼らを追い詰めます。遊牧民の生活は、現代社会の潮流によって翻弄されているのです。ラダックのなかでも古い歴史を受け継ぎ、家畜とともに暮らす伝統が残るギャ村では、羊飼いのツェリンさんが、たった一人で壮大な自然の中、数百頭の家畜たちとたくましく生きています。 「ここでは自分自身で全部学ばないといけないよ。誰も教えてくれないんだよ。山で体調が悪くなったときに自分は病気なんだと思うと本当に病気になってしまう。もしも病気じゃないと思えば病気にはならないよ。すべては心次第なんだよ」。こうした価値観を目の当たりにして、私たちはあらためて、大自然と人間のつながりや、心の在り方などを深く考えさせられます。そして、生きることの厳しさと美しさを、あらためて感じさせてくれるのです。

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