特集「フィリピンの悪夢」(全2本)

◆深刻な超格差社会
フィリピン社会では貧富の格差が深刻な問題として横たわっています。国民の9割が貧困層といわれた10年前から、フィリピンは急激な経済成長を遂げていますが、まだまだ国民の半分以上が低所得、貧困状態にあるといわれています。特に富裕層と貧困層の所得格差は大きく、一握りの富裕層が多くの富を独占し、貧困層が生活に困窮する状況です。さらにフィリピンでは国内の雇用機会が足りず、高い失業率と出稼ぎのための海外移住も大きな課題です。自然災害による被害も貧困層の人々を苦しめています。
 
◆「麻薬撲滅戦争」がもたらしたもの
2016年に就任したドゥテルテ大統領は、麻薬患者や売人をその場で射殺する権利を警察に与えました。フィリピンの麻薬取締局は、国家警察による2016年7月1日~2020年1月31日の対麻薬取締作戦中に5,601人の容疑者が死亡したと報告しています。その他に、正体不明の武装集団などが殺害した数千人は、この数には含まれていません。なかには子どもが殺害された例も数多くあります。こうした事態に、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2020年6月4日、フィリピンの人権状況に関する報告書を公表。麻薬取り締まりの中で、警官による市民の殺害や人権侵害、殺人を犯した警官の不処罰、家宅捜索での証拠偽造など数々の事実を明らかにしています。犠牲は殺人の問題だけではなく、貧困層における警察や政府に対する不信感の高まり、そして親を失った子どもたちの苦しみにまで及んでいます。わずかな収入で生活していた家族が、働き手の親を失ったことで路頭に迷い、生きていくための食糧を手にすることさえできない悲惨な状況に陥っているのです。また、目の前で親を殺害された子どもは、深い心の傷を負っています。そうした精神的なケアも行われることなく、ほとんど放置されているのが現状です。一方、こうした悪夢のようなフィリピンの状況を変えるためには、政治を動かすしかありません。しかし、フィリピンに蔓延する政治腐敗もまた深刻な状況にあるのです。今回の特集では、悪夢のようなフィリピンの現状を直視しながら、政治権力の意義や、社会の様々な矛盾について3つの作品を通して考えます。

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