特集「爆心地 レバノン」(全3本)

◆世界を震撼させた首都ベイルートでの大爆発
2020年8月4日に発生したレバノンの首都ベイルートの港湾地区における大爆発は、世界中を震撼させました。爆発の原因は行政の怠慢により長年倉庫に放置されていた2750トンもの危険な化学物質、硝酸アンモニウムに引火したことだと見られています。この爆発で200人以上が死亡し、30万人以上が住宅を失いました。この大惨事に対し、フランスのマクロン大統領は現地を訪れ、真剣な改革を実行するようレバノン政府に要請し、それに失敗すればレバノンの国が「消滅する」危機に直面するとさえ警告しました。一方で、爆発による国民の不満は、頂点に達します。民衆による大規模なデモは、体制打倒を叫ぶ抗議運動へと発展し、当時のディアブ首相は政権を退陣せざるをえませんでした。しかし、レバノンが抱える問題の根は深く、政権の退陣で事態が改善されるものでもありません。背景には、この国の人々が直面している経済的な苦境と、国にはびこる腐敗と、無責任で硬直化した特殊な政治体制がありました。宗教・宗派ごとの有力者一族や、内戦時代に生まれた政治組織が、権力を分有することで政治的に共存する仕組みが確立されているからです。
 
◆中東地域のあらゆる対立が国内に波及
さらにレバノンは、国際的な立場でも、極めて難しい状況に置かれています。中東の国際情勢やイスラム教の宗派対立、キリスト教勢力とイスラム教勢力の衝突など、多くの宗派を内包するレバノンにとって、各グループがそれぞれに国外の勢力と結びつき、自らの勢力を維持しようとするため、中東全体の力のせめぎ合いを国内に抱え込むことになるのです。また、50万人のパレスチナ難民と、150万人ものシリア難民の流入は、人口700万人に満たないレバノンにとって大きな負担です。しかしながら、こうした対立を無責任に放置することは、問題をますます深刻化させ、内戦勃発の危険さえはらんでいるのです。今回の特集では、首都ベイルートで暮らす人々を描いた4作品から、レバノンの現実を見つめます。

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