特集「インドネシア 発展の陰で」(全3本)

◆安定した経済成長に世界が注目
主要新興国の中で、最も安定した発展を続けているのがインドネシアです。資源大国といわれる同国は豊富な天然ガスやニッケルなどの資源の他、天然ゴムやパームオイルなどの農産物の輸出が好調。また、世界第4位となる2.5億人の人口が生み出す内需も堅調で、長期的な経済成長が見込める国として、外国からの投資も活発です。国民所得は上昇傾向にあり、2020年にはコロナ禍のマイナス成長局面にあっても、世界銀行が同国を上位中所得国に格上げしています。
 
◆クーデター鎮圧を機に共産主義者虐殺が始まる
17世紀初頭から300年以上オランダ領だったインドネシアは、日本の占領期間を経て1945年に独立を宣言。独立戦争後の1950年に国家を樹立しました。独立後は、“国父”と呼ばれるスカルノ初代大統領が20年以上にわたって政権を維持。冷戦下の局面で、国内の左派・右派両勢力の拮抗状況を利用することで権力保ち続けました。しかし1965年、陸軍内の共産主義勢力によるクーデターが勃発。右派勢力によりすぐに鎮圧されたものの、その後に行われた “共産主義者狩り”は、犠牲者100万人ともいわれる大虐殺事件へと発展しました。
 
◆長期独裁政権が生み出した腐敗
クーデター鎮圧を機に台頭し、1968年に2代目の大統領に就任したのがスハルト氏です。スハルト氏の支持基盤は、自らの出身母体である国軍と、職能集団(政党)のゴルカル。子飼いの軍人を中央・地方の行政機関の要職に任命し、選挙ではゴルカルに有利な法制度「ゴルカル法」を定め、独裁政権を築き上げました。ゴルカルへの寄付は後を絶たず、資金面でもスハルト政権が他党を圧倒。その不透明さから、汚職や癒着などによる組織腐敗の温床になったと言われています。1997年のアジア通貨危機に端を発した経済混乱とジャカルタ暴動により、スハルト政権は崩壊しました。
 
◆拡大する格差の背景にある政治の不作為
スハルト政権崩壊後の1998年以降、5度の大統領交代を経ましたが、富の不平等は拡大しています。富裕層の財産は大幅に増加し、貧困層の所得が伸び悩んでいるのが原因です。市民レベルの社会運動が多くあるにも関わらず、資本家たちが公的な政治を牛耳っており、社会的弱者の政治参加はパトロンなしには実現しにくい状況です。為政者は社会全体への再分配よりも、資本家や権力者への利益供与を重視してきました。インドネシアにおける不平等は、この10年ほどで悪化傾向が加速度的に強まっています。

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