インドの電力問題と電気窃盗の実態に迫る「街角の盗電師」ドキュメンタリー作品
-インドの急成長とエネルギー事情における送配電ロスと盗電・電気窃盗のリアル-

今回のドキュメンタリー映画紹介は、目覚ましい急成長のインドを舞台にした電気問題にフォーカスされた『街角の盗電師』です。制作された時期のインドの送配電ロスは28%となっており、違法配線による電気窃盗が横行している実態を描いた本ドキュメンタリー映画。電力公社とねずみ小僧のような存在である街角の「盗電師」の攻防は見ごたえがあります!それでは作品紹介をさせていただきます。
<作品紹介>
ドキュメンタリー作品タイトル:街角の盗電師
~電気窃盗は罪か?インドの経済発展とエネルギーを巡る攻防ドキュメンタリー作品~
原題 | Powerless |
制作年/作品時間 | 2013年制作/作品時間82分 |
撮影地 | インド |
製作国 | インド、アメリカ |
監督 | ディープティ・カッカー、ファハド・ムスタファ |
インドの工業都市・カーンプルで繰り広げられる街の〝盗電師〟と電力会社との攻防を描いたドキュメンタリー映画。人口約280万人が電気を求めているはずなのに、実際の契約者は50万人。しかも、滞納者ばかりでまともな消費者が少ないという現実。それはなぜかというと、実際は誰もが電気を盗んでいるのです。活躍するのは、街の天才〝盗電師〟。彼は「世のため、人のため」、停電が起きるたびに電線に細工をして、違法配線でタダで電力を使えるようにしてくれるのです。苦境に陥る地域の電力公社に最高責任者として赴任してきたのが、敏腕の女性官僚。果たして軍配はどちらに上がるのか?
[ドキュメンタリー作品・予告編]

<インドの経済状況・データ概況>
インドにおける「総人口」、「GDP」、「送配電ロス率」を2010年から3年ごとの年次としてまとめました。
年 | 総人口(億人) | GDP(兆ドル) | 送配電ロス率(%) |
2010 | 12.4 | 1.7 | 約28% |
2013 | 12.9 | 1.9 | 約25.5% |
2016 | 13.4 | 2.3 | 約24% |
2019 | 13.8 | 2.9 | 約21% |
2022 | 14.2 | 3.5 | 約17.5% |
(人口:国連の世界人口推計2024年版)
※上記の数値は推定値として概算試算でまとめております。
2022年におけるインドの総人口は2010年比で約115%伸長し、GDPは約205%伸長しており、経済成長とともにエネルギー需要が必要とされています。
インドの特徴的な電力事情として、技術的及び商業的損失(AT&C Loss:Aggregate Technical & Commercial Loss)が大きいことがあげられます。AT&C Lossは、エネルギーとしての損失(技術不足による損失、盗電等)及び経営面の損失(支払い未実施、回収非効率性等)があり、電力会社の経営や運営に直接影響を及ぼしています。

<インドの電力問題をリアルに描くドキュメンタリー>
人口が増加しつづけるインドでは、本作品制作当時、国民の5分の1に近い約2.4億人が電気のない生活を送っていました。『街角の盗電師』は、インドの工業都市カーンプルにおける電力供給の不安定性と、それに伴う電気窃盗・電力盗難の実態を追ったドキュメンタリーとなっています。インドの電力事情は、急速な経済発展とともに電力需要が増大し、電力供給が追いつかないという課題を抱えています。停電が頻発し、違法な配線による盗電が社会問題となっています。本作では、電力公社と盗電師の対立を通じて、インドの送配電ロスや電力供給の不平等といったインフラ問題の一端が明らかになります。

◇インドの工業都市「カーンプル」◇
「カーンプル」は、インド北部のインド州の中で人口が一番多い「ウッタル・プラデーシュ州」の工業都市で、インドの首都デリーと各都市をガンジス川沿いを経由して結ぶ重要幹線上に位置し、日中はもちろん深夜時間帯も多数の列車が発着する鉄道の要衝です。
インドの街並みや日常生活のリアルな様子を映し出し、観光では見えにくいインドの社会状況を知るきっかけにもなります。これからインド旅行を計画している方や、インド文化に興味がある方にとって、より深くインドを理解する映像にあふれています。
<インドの送配電ロスや盗電の実態と現在の状況>
本作では、カーンプルの電力公社が電力供給の改善に取り組む様子や、電力改革のための施策も垣間見えます。しかし、電力供給の課題が山積する中、住民は違法な手段で電気を確保せざるを得ない状況にあります。電力盗難が社会全体に与える影響は大きく、電力消費と経済発展のバランスをいかに取るかが重要な課題となっていました。
インドの送配電ロス率(AT&C Loss)は、2010年時点で約28%と高い水準にありました。高い送配電ロス率は、送配電システムの保守や整備の遅れ、違法配線による盗電、電力量メーターの改ざんなどが原因とされています。インド政府は、これらの問題に対処するため、2015年以降、「総合電力開発計画(IPDS:Integrated Power Development Scheme)」を実施し、特に都市部での配電ロスの低減を図ってきました。2019年のインドのAT&C Lossは約21%と低下傾向にありますが、世界平均値10%を大幅に上回っています。インドは、2025年までにAT&C Lossを10%に減らすことを目標に、公営の電力会社の民営化や電力ロスを軽減するシステム等を構築を図っています。

<インドのエネルギー政策と電力問題を通じて見るサスティナブルな未来>
インドでは、再生可能エネルギーの導入や電力インフラの改善が進められていますが、人口増加の背景や経済成長によるエネルギー需要の高まりを背景に、電力供給の不安定性が今後も続くことが懸念されています。
本作を通じて、インドのエネルギー政策や電力供給問題を知り、電力供給の課題に直面する都市問題を考える上で、非常に示唆に富んだドキュメンタリー作品です。本作では、インドの電力不足や盗電の実態を通じて、持続可能な社会のあり方を考えさせられます。停電が頻発する現実、違法な配線がもたらす問題など、環境問題やサスティナブルなエネルギー政策に関心のある方にとっても、見応えのある作品です。インドの再生可能エネルギーの取り組みや、エネルギー供給の公平性について考えるきっかけになります。
<インドの社会課題に迫るドキュメンタリー映画のススメ>


本作は、電力公社と盗電師の対立を通じて、電力供給の不平等や都市部と地方の格差といった社会問題を浮き彫りにしています。インドの経済発展がもたらす影響や、日常生活における課題をリアルに描いており、社会問題に興味のある方にもおすすめです。電力消費と経済発展のバランス、貧困層の実態など、多角的な視点でインドの今を知ることができます。
■社会を生き抜く力を養うドキュメンタリー作品はこんな方におすすめ!
・インドのエネルギー政策やインフラ問題について学びたい方
・インド観光を予定している方やインド文化が好きな方
・地球環境問題やサスティナブルな社会に関心がある方
・社会問題を深く掘り下げるドキュメンタリーが好きな方
『街角の盗電師』は、インドの電力供給の課題を浮き彫りにし、社会全体に問いを投げかける作品です。観光地だけでは見えないインドのリアルを知りたい方に、ぜひご覧いただきたい衝撃的なドキュメンタリー作品です!
『街角の盗電師』は、インドの電力供給の課題を浮き彫りにし、社会全体に問いを投げかける作品です。観光地だけでは見えないインドのリアルを知りたい方に、ぜひご覧いただきたい衝撃的なドキュメンタリー作品です!
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