中国のプラスチックリサイクルの裏側に潜む貧困と環境問題を描く衝撃のドキュメンタリー『プラスチック・チャイナ』

 


今回のドキュメンタリー映画紹介は、私たちが日々出すプラスチック廃棄物が、どこへ運ばれ、どのようにリサイクル工場で処理されているのかを明らかにした環境ドキュメンタリー映画『プラスチック・チャイナ』です。世界中から輸入されてきたプラスチックゴミを処理する中国の片田舎にあるリサイクル工場では、貧困層の家族や児童労働に近い形で働く子どもたちの姿があります。貧困によって教育を受けられない負の連鎖、世界中のゴミ問題が中国の環境問題に繋がっている現実を感じさせてくれる映画となっています。それでは作品紹介をさせていただきます。
 

<作品紹介>

ドキュメンタリー作品タイトル:プラスチック・チャイナ

~廃棄物輸入の中国プラスチックリサイクル工場の衝撃貧困生活。貧困層の子どもの教育格差と環境問題に迫る~

 
制作年  2016年製作
作品時間  作品時間82分
製作国/撮影地  中国
監督  ワン・チウリャン
受賞歴
 2016年 IDFA特別審査員賞 
 2017年 サンダンス映画祭 公式セレクション 
 2017年 ONE WORLD 国際人権ドキュメンタリー映画祭 最優秀監督賞 
 2017年 ミレニアム 国際ドキュメンタリー映画祭 持続可能な開発に関する最優秀映画 
 2017年 フル フレーム ドキュメンタリー映画祭 環境賞 
 2017年 台北金馬映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞・最優秀編集賞 
 2017年 ロサンゼルス・アジア太平洋映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞 
 
世界中から輸入したプラスチックのゴミをリサイクルする中国の小さな家族経営の町工場の日々。そこで働く父親と暮らす少女イージエは、幼い妹や弟の世話をしながら、プラスチックリサイクル工場の仕事を手伝って暮らしています。イージエは学校へ行く夢を抱いていますが、飲んだくれの父親は、許してくれません。学校へ通わせる金はないというのです。仕方なく、ゴミ山から見つけてきた雑誌や広告を教科書代わりに、言葉を学ぼうとするイージエ。一方、雇い主のクンは、農村出身で、生きていくためにできることは工場を必死で営むしかないと嘆きます。一人息子をようやく学校へ通わせることができましたが、今度は衝動的に買った車で莫大なローンを背負うことになりました。いつまで学校へ通わせることができるのでしょうか…。黒煙を上げ、野焼きされる廃棄物。有害物質が漂うゴミ山で教育を受けられない子どもたちは1日中遊んでいます。経済発展を遂げた中国社会の貧困層の暮らしをみつめる衝撃的なドキュメンタリー作品です。

[ドキュメンタリー作品・予告編]
 

 

本作品の見どころをお伝えする前に、本作に関連する中国の環境問題や貧困状況に関して、簡単に解説いたします。

<解説!中国のプラスチックごみ輸入・処理の実態と貧困状況>

■中国のプラスチックごみの輸入概況■

中国はかつて、世界最大の廃プラスチック輸入国でした。2010年には、輸入した廃プラスチックの再生利用量は、年間約780万トンであり、そのうち日本からの輸出量は約140万トンに達していました。2017年までは世界各国が輸出する廃プラスチックの約5~6割を中国が輸入していました。輸出国の上位はドイツ、日本、米国でした。しかし、2017年末に中国政府は廃プラスチックの輸入を禁止し、2018年1月から施行されました。この措置により、生活由来の廃プラスチックや未分別の紙くず、繊維くずの輸入が制限され、世界の廃プラスチックの貿易フローに大きな変化をもたらしました。

中国の輸入規制の背景には、輸出国の虚偽申告となる「ゴミの押し付け」のような実態が発生しており、輸入された廃プラスチックの多くが適切に処理されず、環境汚染や健康被害を引き起こしていたことがあります。特に、農村部の小規模なリサイクル工場では、劣悪な労働環境や不十分な廃棄物処理が問題となっていました。本作「プラスチック・チャイナ」ドキュメンタリー映画が中国社会に与えた影響もあると言われています。




■中国の貧困割合と農村部の貧困状況■

中国は経済成長を遂げる一方で、貧困問題にも取り組んできました。改革開放以降、農村部の7億7000万人が貧困から脱却し、世界の貧困削減プロセスを大きく加速させてきたとの発表があります。しかし、依然として農村部では貧困が残っており、インフラの整備や教育、医療などの面で都市部との格差が存在しています。
特に、農村部の小規模な工場で働く人々は、低賃金や劣悪な労働環境に苦しんでおり、生活の質の向上が求められています。また、こうした地域では、子どもたちが教育を受ける機会が限られており、貧困の連鎖が続いています。

■中国の子どもの貧困と教育の状況■

中国では、義務教育制度が整備され、学齢児童の就学率は高い水準にあります。しかし、農村部では貧困家庭が多く、教育費の負担が重くのしかかっています。2000年の統計では、農村部を中心に小学校の未就学学齢児童が111万人に上っており、教育格差が深刻な問題となっています。また就学できた後の中途退学も発生しており、2001年に小学校に入学した児童が2005年には約92%にまで減少しているというデータがあり、中途退学・失学児童も深刻な問題です。失学する最大の理由は貧困であるとされています。学校での水道代や光熱費、学習机の修繕費などの名目で徴収される雑費が、貧困家庭にとって大きな負担となっており、子どもたちの就学を妨げる要因となっています。



■リサイクル業界・廃棄物処理の実態■

環境対策、リサイクルという言葉の裏に、世界中から輸入されたプラスチックごみが、中国の小さな町工場で手作業によって分別・加工され、新たな製品の原料として再利用されます。しかし、その過程で発生する有害物質や劣悪な労働環境は、労働者やその家族の健康を脅かし、周囲の環境にも深刻な影響を及ぼしています。
また、リサイクル工場で働く子どもたちの姿は、児童労働の実態や教育を受けられない子どもたちの現状を浮き彫りにしています。教育格差問題や貧困と未就学の問題、家庭内暴力と貧困など、さまざまな社会問題が複雑に絡み合う状況を引き起こします。



<『プラスチックチャイナ』ドキュメンタリー作品のみどころ>

本作は、リサイクル問題や中国の廃棄物処理の実態、貧困層の生活や教育格差問題など、現代社会が抱えるさまざまな課題を鋭く描いた環境ドキュメンタリーです。リサイクルという一見善意に満ちた行為の裏側にある現実を知ることで、私たちの消費行動や環境への意識を見直すきっかけになると思います。

中国のプラスチック再生工場で働く父親と共に暮らす少女イージエ。幼い兄弟を世話しながら、児童労働に近い形で工場を健気に手伝い、学校には通えず、ゴミから見つけた素材で言葉や知識を身につけていく姿が描かれています。また工場の雇い主あるクンは、農村出身で、低収益ながら、家族を養うために必死で工場を営んでいます。工場では、黒煙を上げて野焼きされる廃棄物や、有害物質が漂うゴミ山で遊ぶ子どもたちの姿が映し出され、経済発展を遂げた中国社会の貧困層の暮らしと、環境問題の実態が浮き彫りになります。

 

■こんな方におすすめ■

本作は、環境問題を扱った映画や貧困ドキュメンタリー、教育問題をテーマにした作品に興味がある方にとって、必見の一作です。リサイクル工場で働く子どもたちの姿や、中国農村部の現状を知ることで、世界の現実に目を向けるきっかけとなるでしょう。以下のような方には特におすすめです。
・リサイクルや環境問題に関心がある方
・中国の貧困層の生活や教育格差問題に興味がある方
・児童労働の実態や子どもの貧困と教育の関係を知りたい方
・持続可能な社会の実現に向けた課題に取り組む方


日本はプラスチックゴミの廃棄物を輸出しており、処理を中国の貧困層に依存していたことになります。世界中の廃棄物の発生と輸出が他国に影響を与える環境問題ー。その処理に追われる輸入国の劣悪なリサイクル工場で働く、貧困層の家族や児童労働に近い形で働く子どもたち。自国の環境対策やゴミ処理が他国の貧困や子どもたちの教育格差の発生につながっていることを深く考えさせられます。
『プラスチック・チャイナ』は、アジアンドキュメンタリーズで配信中です。ぜひ、この機会にご覧いただき、世界の現実に目を向けるきっかけにしていただければと思います。
 


◇その他おすすめドキュメンタリーご紹介

環境をテーマにしたドキュメンタリー作品では、今回ご紹介した『プラスチック・チャイナ』以外にもベトナムのプラスチックごみ問題を描いた『汚れた仕事』やリサイクル率100%のプラスチック製品の行方を追った『リサイクルの幻想』も公開されています。是非ご覧ください。
『汚れた仕事』サイトURL:https://asiandocs.co.jp/contents/402
『リサイクルの幻想』サイトURL:https://asiandocs.co.jp/contents/1367

【コラム】おすすめ!必見作品『プラスチック・チャイナ』

アジアンドキュメンタリーズの配信作品の中から、今、特に注目されている人気の話題作をピックアップしてご紹介させていただきます。
 
ドキュメンタリー作品ページはこちらからご視聴下さい。

『プラスチック・チャイナ』 https://asiandocs.co.jp/contents/52


カテゴリ

お気に入り登録

お気に入り登録数:0