特集「日本の伝統美」(全9本)

◆自然と調和し、発展してきた日本人の美意識
日本には、長い歴史の中で培われてきた独特の美意識や文化があります。古来より自然との調和を重んじ、それが精霊崇拝や宗教となって私たちの心に宿っています。春夏秋冬の四季がもたらす豊かな自然環境は、日常生活はもちろん建築様式、文化芸術などさまざまな分野に影響を与えてきました。自然、季節感を大切にする美意識は、現代のデザインやファッションにも根付いています。また、私たちの生活様式や考え方にも自然をベースにした美意識が反映されており、多忙な日々の中でも季節の移り変わりを感じ、簡素でありながらも品のある暮らし方が好まれます。自然と調和することは、日本人にとって生きることそのものと言えるでしょう。
 
 
◆暮らしに寄り添う工芸品を支える職人の技法
私たち日本人は自然から体得した美意識を、木工や陶器、漆器、ガラス細工など、さまざまな道具でも表現しています。地域の資源を使い、すぐれた工芸品を生み出してきました。それを可能にしたのが、職人たちが長い年月をかけて磨き、伝承してきた技術、技法です。伝統工芸や伝統建築には、美しさとともに実用性も重視する日本独自の思想が込められています。美と実用性の共存は「用の美」という言葉で広く知られる概念であり、過度な装飾を避け、素材の持ち味や形の機能性など、生活に寄り添うなかでにじみ出る静かな美を指します。用の美こそが日本の工芸に流れている美の基準であるといえます。
 
◆自分を磨き、心の美を大切にする普遍的な精神
日本の伝統美は、身の回りの物質だけでなく、我々の精神にも宿っています。たとえば不完全なものや古びたものの中にも美しさを見出す「侘び寂び」の精神があります。また、茶道、武道など「道」がつく芸事は、稽古を通して心を磨くという、独特の美意識が支えています。集団の中では、争いを避けて互いに認め合う「和」という調和の精神も大切です。これらの精神的な美意識は、神道や仏教などの宗教的な観念の中だけでなく、無宗教と言われる人たちの中にも息づいており、それは我々日本人の暮らしに深く根ざした普遍的な意識ともいえます。
 

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