
特集「強制移住」(全4本)
◆開拓や開発の陰で、強制移住の悲劇がある
強制移住とは、特定の民族やコミュニティーを、故郷から離れた場所に強制的に移動させること。開拓時代の米国で数万人の先住民族を強制的に移住させたり、スターリン政権下のソビエト連邦で朝鮮人やドイツ人、チェチェン人が中央アジアやシベリアに送られたりといった歴史がありました。そして現代においても、政治的あるいは経済的理由などで強制移住が行われています。その多くが、国家主導の開発政策によるもの。ダム建設、空港整備、都市再開発などの名のもとに、住民の意思に反して立ち退きが求められる事例は後を絶ちません。インドの大規模ダム建設では数十万人規模の移住を行い、国際的な批判を浴びました。中国では深圳に代表される都市化と経済特区の推進のため、国家主導で人口移動を実施。開発の名のもとに、地域の暮らしを消失させてきました。
◆金銭補償だけでは再建できない、生活文化とコミュニティー
観光開発は地域経済の活性化をもたらす一方で、住民の生活環境に深刻な影響を及ぼすことがあります。外国資本による高級ホテル建設のために住民が郊外へ移住し、農業や漁業ができなくなり、観光業への従事を余儀なくされることも珍しくありません。日本では、観光地化が進む地域で「空き家対策」や「景観整備」の名のもとに、住民の生活空間が制限されるケースがあります。観光開発は、住民との合意形成プロセスが不可欠です。しかし現実には、説明会や意見聴取が形式的に行われるだけで、住民の声が政策に反映されることは稀です。多くの移住政策で、金銭的補償が実施されています。しかし、生活文化や人間関係は金額で換算できるものではなく、移住後の生活支援や地域再建へのフォローも求められています。
◆迫害から逃れた先でも見つからない安住の地
戦争、迫害、災害などの状況下で故郷を離れざるを得ない人々は、避難先で新たな生活を築かなければなりません。しかし、そのプロセスは決して容易なものではないのです。難民の受け入れ制度は国によって大きく異なります。たとえばドイツでは、難民申請者に対して州政府が運営する施設への滞在を義務づけ、生活費や住居支援を提供しています。一方、日本では2022年度の生活費支給対象者はわずか204人、住居提供は25人にとどまり、制度的支援の脆弱さが課題となっています。強制移住の背景には、望まない選択と喪失があります。だからこそ、受け入れる側の社会には、共感と制度の両輪が求められるのです。
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