特集「介護について」(全13本)

◆家族や介護者の重い負担と必要なケア
介護は、家族介護者や支援者の心身、経済、そしてキャリアに多大な負担を強いる社会課題です。特に高齢化が進行する日本では、65歳以上の高齢者が高齢者を介護する「老々介護」の割合が60%を突破。介護者の孤立や心労が深刻化しています。働き盛りの世代でも、仕事や子育てと同時に、寝たきりの親の食事や入浴といった身の回りの世話を担う状況の人も多く、その負担は計り知れません。また、発達障害や知的障害を持つ家族の介護においては、親が子どもの将来に不安を抱き、全てを捧げて介護する実情があります。介護者の負担軽減と精神的なケアの重要性は、国境を超えた共通の課題です。
 
◆変わりつつある、要介護者の人権と尊厳
要介護者の人権と尊厳を確保することは、現代の医療と介護における最も重要な倫理的課題の一つ。終末期医療においては、延命治療と人間の尊厳のバランスが常に問いかけられます。回復の見込みがない医療、すなわち「*無益な医療」の問題がしばしば発生しますが、台湾で成立した「患者自主権利法」のように、患者が終末期医療の選択を自ら行う権利を保障する動きが進んでいます。この法律により、重度な認知症や難病の患者であっても、知る権利、選択する権利、決定する権利が認められ、延命治療の中止や差し控えが可能になりました。また、病気の治癒が難しい患者が、自らの意思で死を迎える「尊厳死」や、医師が投薬により死に導く「安楽死」の合法化、自殺幇助の合法化といった、終焉の選択に関する国際的な議論も活発化しています。
 
◆認知症になっても安心して暮らせる社会を模索
誰もが豊かで人間らしい老後を安心して過ごすためには、社会全体での多角的な支援体制が不可欠です。認知症は世界共通の課題であり、2050年までに患者数が1億3900万人に達すると予測されており、特に低・中所得国での増加が深刻です。アジアやアフリカでは「親の世話は子供がするもの」という家族観が依然として一般的ですが、高齢化の進行に伴い、この伝統的な家族観が崩壊し、施設利用が増加しています。また、韓国では認知症予防プログラムが、モルドバでは独自の認知症ケアが行われており、各国が多様なアプローチを模索しています。親族だけでなく、近隣住民の助けを借りてありのままの要介護者を受け入れ、隠さずに共生する姿勢も、地域社会における安心を築く上で重要な要素です。

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