特集「障害をのりこえて」(全13本)

◆尊厳を守り、社会参加を促す世界的な潮流
世界人口の約15%(約10億人)を占める障害者の尊厳を守るため、2006年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」は、障害者を社会の積極的な一員と位置づけ、完全参加を促す法的な枠組みです。この潮流は医療現場における「自己決定権」の確立にも波及し、事前指示に基づく延命治療の選択や、知る権利・決定権を法的に保障する制度が整備されつつあります。これは「誰が本人の人生を決めるのか」という人権の根源を問うものです。障害とは単なる身体的・精神的な不自由さだけではありません。国際社会は障害者を慈善や治療の「対象」から、権利の主体である「人間」へと捉え直す大きなパラダイム・シフトの渦中にあります。
 
◆「個の問題」から「社会全体で取り組む課題」へ
障害者ケアの現場には、深い愛情と表裏一体の、過酷な葛藤が常に存在しています。家族が主な介助を担う場合、ケアラーの精神的・経済的孤立が深刻な社会課題となっています。難病や認知症の介護において、献身的に尽くす一方で生じる家族内の不協和音や、将来への絶望が家族を追い詰めるケースも少なくありません。一方で、介護を家庭内に「隠す」のではなく、あえて地域に「お披露目」し、ユーモアを交えて共生を模索する家族の強靭な姿も見られます。また、医師たちも、医学的なリスク管理と患者の「人間らしい幸福」の間で、倫理的な揺れ動きを経験しています。彼らの闘いは、愛情という美名の下に隠れがちな構造的負担を、いかに社会全体で分かち合うかという重い問いを私たちに突きつけています。
 
◆自己実現は、寛容な社会を実現するための道標
障害を抱える人々にとっての自立とは、単に身の回りのことを自分ですることではなく、表現を通じて社会と繋がり、「自分らしさ」を確立することに他なりません。アートや音楽といった創造的活動は、身体的・精神的な制約を乗り越える強力な手段となります。評価のためではなく内なる衝動のままに創作される作品や、視覚を失っても想像力という「心の目」で美を紡ぎ出す行為は、他者との確かな結節点となり、生きる力を育みます。また、自ら難病の治療法開発を主導するなど、限界に抗い続ける意志も、個人の尊厳を証明する自立の形です。決して「特別な才能」を持つ特別な存在ではなく、一人の人間として恋愛や結婚、自己実現を追求したい。障害者が切り拓く独自の道が、多様な価値観を認める寛容な社会への道標となっています。

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