特集「観光公害」(全4本)

◆回復する世界の観光と、直面する問題
国連世界観光機関(UNWTO)によると、2023年第1四半期は、2022年同時期の2 倍の人が旅行し、国際観光はパンデミック前の水準の80%まで回復しています。中でも中東は、2019年と比較して+15%と、世界で唯一、パンデミック前を上回る国際観光客到着数を記録しています。観光が持つ独自の回復力を示した結果となっています。一方で、地政学的な不安や人材不足、インフレーションなど、懸念すべき課題が残っています。また、旅行者数の回復が気候変動への悪影響とならないよう、新たな観光施策も求められています。
 
◆市場拡大が地域経済に波及していない現状
観光開発には、地域経済を循環させる効果があり、途上国にとっては参入しやすく、先進国にとっては最後にして最大の成長分野です。世界のレジャー旅行市場規模は2019年に1兆65億ドルと評価されています。2027年までに1兆7,373億ドルに達すると予測されており、2021年から2027年までの年平均成長率は22.6%。今後も拡大が見込まれる中で期待されるのは、観光地や周辺地域の繁栄です。これまでの観光事業では、労働力の搾取や外資系企業の独占的な参入などがあり、地域経済に寄与していない開発もありました。訪れる観光客と迎える地域住民の双方に恩恵をもたらす観光スタイルの実現へ、チャレンジは続いています。
 
◆ツーリズムは「オーバー」から「サステナブル」へ
近年の観光スタイルは、旧来のものから大きく変化しています。格安航空会社(LCC)の登場による、低価格旅行の普及。民泊サービスが増えたことによる低価格・長期滞在の増加。アジア、アフリカの中間所得層増加による旅行者の自然増。SNSによる観光地情報の共有。これらの条件が重なることで、オーバーツーリズム(観光公害)が生まれています。オーバーツーリズムによって交通渋滞や騒音、ごみの不法投棄、文化財の損傷など住民生活や自然環境への悪影響が懸念されています。その結果、観光地としての魅力がダウンする可能性も否めません。オーバーツーリズムから、観光地本来の姿を楽しむことができるサステナブルツーリズムへ。事業者とともに旅行者の姿勢も問われるでしょう。

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