特集「失われたイラク」(全5本)
◆古代遺跡も「憎悪」と「憎しみ」の対象と捉えるIS
イラクは5000年前にメソポタミア文明が生まれた場所として知られていますが、さらに遡ると、およそ6万年前にネアンデルタール人が住んでいたことも分かっています。チグリス、ユーフラテス川流域には数多くの古代遺跡が残っていましたが、過激派組織ISの破壊活動により、その多くが姿を消しました。偶像崇拝を「憎悪」と「憎しみ」の対象であるとし、断罪するイスラム原理主義思想によるものです。ISにとっては、遺跡の破壊さえも「アッラーに祝福されること」なのです。紛争や戦争、度重なる政変など、イラク国民が経験してきた痛みが伝わる映像作品を、特集としてお届けします。
◆繰り返される戦闘が国民の生活を破壊
長引く戦争や紛争により、イラク国民の多くが難民となって隣国へ逃れました。一方でイラクは、シリア難民の受け入れ国の一つでもあり、中東問題の複雑さを物語っています。2014年、シリアとイラクの国境付近で勢力を拡大していたISが、イラク第2の都市モスルを占拠。モスル陥落とも呼ばれるこの事件以降、モスルの街は3年間にわたって武装勢力の拠点となりました。2016年からイラク政府軍が展開したモスル奪還作戦では、激しい戦闘が展開されました。住宅や公共施設など、多くのインフラが破壊され、住民の約半数が家を追われ、避難民になったと言われています。IS掃討作戦が完了して以降は、住民のモスルへの帰還が進んでいます。しかし、生活の立て直しは容易ではありません。
◆心の傷が癒えない子どもたちには息の長い支援が必要
民間の調査団体の報告によると、イラクの避難民キャンプでは、子どものおよそ9割が、戦闘の犠牲や誘拐などで家族や親族を失っていて、それが最大のストレス要因となっています。目の前で家族が殺害されたり、街中で遺体や血の海を見たりといった体験が大きなトラウマとなって、平穏な心を保つことが困難な場合もあります。また、ISが再びやって来るのではないかという恐怖を拭い去れず、悪夢にうなされたり眠れなかったりといった症状を訴える子どもや、感情表現を失ってしまった子どももいます。幼い心が負った傷は、治療に数年あるいはそれ以上の年月を要することもあり、切れ目のない長期的な支援が必要です。
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